内容説明
「雨は、なぜ降るのだろう」。少女時代に雨の原理に素朴な疑問を抱いて、戦前、女性が理系の教育を受ける機会に恵まれない時代から、科学の道を志した猿橋勝子。戦後、アメリカのビキニ水爆実験で降った「死の灰」による放射能汚染の測定にたずさわり、後年、核実験の抑止に影響を与える研究成果をあげた。その生涯にわたる科学への情熱をよみがえらせる長篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あすなろ
118
伊与原先生、直木賞受賞後第一作に評伝的作品持ってくるとは、と読み耽った一冊。そして、僕が思うには一番読み易い伊与原科学小説とも感じた。猿橋勝子氏という実在の科学者を中心に据えた戦前戦中戦後の話である。折しも昭和100年・終戦80年であり、この終戦記念日前後に読了。2つ強く印象に残る描写がある。一つは戦後のビキニ環礁で水爆実験後についてである。広島・長崎に続いた本件を僕は知らなさ過ぎた。非常に勉強となった。もう一つは、女性化学者の地位向上についてである。その他、平塚らいてうの描写等、興味深い読書時間となった2025/08/17
ナミのママ
87
「猿橋賞」「ビキニ環礁での水爆実験」聞いたことがあるかもくらいの認識だった。紫陽花が好きだという大正9年生まれの猿橋勝子さん。女性には門戸が開かれていなかった学問の道、戦争で先が見えない人生、物資の不足、日米間の問題。選択肢の少なかった時代、順風満帆ではなかったが恩師となる人と出会いから方向性が決まる。周囲が騒がしくなっても自分のやるべきことを貫き通していく「めんどくさい人」と言われたその生き方は芯がある。彼女が核実験による長期汚染を分析し続けた事が今の私達につながっていることを忘れてはいけない。2025/08/15
サンダーバード@読メ野鳥の会・怪鳥
82
(2025-123)自然科学分野で顕著な業績を収めた女性科学者に贈られる猿橋賞。賞は知っていたが、その創設者である猿橋勝子がどのような分野で実績を残していたのかは知らなかった。女性には学問よりも良縁が大事、それが女性の幸せという時代に科学者を志した勝子。独自の分析手法により原水爆実験での放射線汚染を最前線で研究し、世の中にその危険性を知らしめた功績。日本のマリー・キュリーとも言える人。猿橋さん自身の努力と才能も勿論だけども、三宅という師に出会えた事も大きいと思う。★★★★2025/08/19
のぶ
77
実在した猿橋勝子さんを題材に、戦時中から戦後の女性科学者の生涯の話。当時は女性科学者の権威はあまりにも低く、科学に打ち込む女性というだけでも相当なハンデがあったことがわかる。勝子が純粋に科学を愛し、その可能性を信じひたむきに打ち込む姿はたくましく、憧れのマリー・キュリーに近づくための努力する姿を見ていると、現代の礎になった先駆者には頭があがらない。自分は物理の知識がまるでなく、作中のそれらの描写についてはまるで分らなかったが、積み上げた努力は良く伝わってきた。2025/08/13
tamami
75
直木賞作家、伊予原新さんの最新作。新潮社のPR誌「波」に長く連載されていたもの。猿橋勝子さんについての人となりや生涯を、本作で初めて知ることができました。女性科学者として、戦中から戦後にかけて、日本に彼女のような先達がいたことに、心から大きな感動を受けました。史実を基にしたフィクションとのことであるが、的確な描写に彩られた文章は大変読みやすく、郷里の諏訪の情景も出てきて親しみを覚えました。歴史の大きな流れにあって、多くの思惑が交錯する中、無心に試料に向き合う行為の中に科学がある、という言葉が印象に残った。2025/08/13
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