内容説明
――人間には知ってはならないことがある。
獅子の年、八の月、二十の日。
悪役令嬢と名高き、エイディーア・ドルワーズが公開処刑された。
――――ここに、すべての謎は幕を開ける。
断首される舞台へと歩を進めるエイディーアは誤って、死刑執行人見習いの青年・ユーニヒトの足を踏む。
「お許しくださいね。わざとではないのです」
そう言われたユーニヒトは、普段の罪人たちとは違うものを覚えて、エイディーアを注視する。
そうして、首を落とされる最期の瞬間、彼女は「一輪の銀聖花」とつぶやいた。
悪逆非道の限りを尽くしたと言われる傾国の悪役令嬢の最期に、強烈な違和感を覚えたユーニヒトは、興味本位から彼女が遺した言葉の真意を知るべく、上司へエイディーアの調査許可を申し出るかを迷うが、偶然にも、身分を明かさないとある人物から彼へエイディーアの調査依頼が出たと告げられる。
ユーニヒトは自身の持つ異能――会話をした相手が、その際に一番強く思い出した記憶を共有できる――を使って、生前のエイディーアと深く関わりのあった人間たちと会い、証言を集めていく。
やがて彼は、知ってはならない恐るべき真実へと辿り着く――。
※「ガ報」付き!
※この作品は底本と同じクオリティのカラーイラスト、モノクロの挿絵イラストが収録されています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
よっち
29
傾国の悪役令嬢エイディーアの最期に、強烈な違和感を覚えた死刑執行人見習いのユーニヒト。彼にとある人物から調査依頼が出されるダークミステリ。普段の罪人たちとは違うものを覚えて、会話をした相手が一番強く思い出した記憶を共有できる異能を使い、没落貴族、令嬢の執事、元孤児院長、墓地管理人、養父母などから証言を集めていくユーニヒト。積み重ねていく中で生まれる違和感があって、知ってはならない恐るべき真実へと辿り着いた彼が最後に出会った人物は果たして誰だったのか。鮮烈な余韻を残すその結末がなかなか印象的な物語でしたね。2025/06/18
ホシナーたかはし
15
好き嫌いがはっきりする18禁にした方が良いサスペンス、私はスキ。孤児を文字通り食い物にする大人たちへの復讐に立ち上がったエイディーア、他の思惑があったとしても、それを誰がとがめられようか。2025/06/26
椎名
10
章始まりの挿絵も含めて御伽噺のような物語だった。悪役令嬢が処刑されるところから物語は始まる。喪われてもなお強く人々の心に残り続ける彼女の調査を続けるうち、主人公もまた、その姿に魅入られるようにして真相へと近付いていく。ゲームという別媒体、別作品の台詞ではあるが、「愛がなければ見えない」を思い出す。何が真実か、それを決めるのはいつだって自分自身だ。理解も本物もどこにもなく、こうであったらいいという祈りのような納得しか存在しない。ラストの一文まで美しく、心を掴まれる一冊だった。2025/06/24
Pustota
6
処刑された魅力的な悪役令嬢。その最期に引っかかりを覚えた処刑人見習いが、依頼を受けて真実を調査する。次第に明らかになる事実から浮かび上がる悪役令嬢の姿、しかしそれは新たな事実により揺さぶられる。キレイな物語への欲望そのものを咎めるような展開が新鮮だった。私は読み終わったあとも憑かれたままです。2025/07/12
史
5
最近(でもないか)増えているファンタジー世界でのミステリー風味。曖昧であやふやである結末はどこかスッキリしないものがあります。しかしそれこそがファンタジーである必然性なのかもしれない。復讐にせよ愛にせよ、狂言回しである処刑人が持ってはいけない強い意志がそこには存在して、だからこそ結末はそうなったのかなと。ただ無粋であるとわかっていてもめでたしめでたしな味が欲しかったのもまた事実で。なかなかどうして気持ちの整理が難しいかな。悪くない。2025/07/08