内容説明
語れないと思っていたこと。
言葉にできなかったこと。
東日本大震災が起きたとき、伊智花は盛岡の高校生だった。
それからの10年の時間をたどり、人びとの経験や思いを語る声を紡いでいく、著者初めての小説。
第165回芥川賞候補作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
はっせー
44
本書は東日本大震災後の日常をテーマに震災からの心の再生を描いた作品となる。タイトルの『氷柱の声』について考察したいと思う。氷柱は東日本大震災前後で経験した思いや記憶。色々と辛いこともあったので氷漬けにされている。だが時が経つにつれこの氷柱は少しずつ溶け出してくる。マイナスなことが出てくるかもしれませんが、その中にはプラスなことや自分のアイデンティティにまつわることも一緒に出てくる。氷柱の声とは、氷柱が溶けるときに鳴る音(中から出ようとする記憶や思い)や水滴(思い出した記憶や思い)なのかなって思った😄2025/08/31
えみ
42
可哀想でツラくて大変な思いをした…という役割を割り振られている。高2で東日本大震災を経験し、被災地に住んでいたことで「被害者」となった彼女を中心に語られる、その後の生活での心の葛藤。それがとても真に迫っていて怖かった。善意には「そうあってほしい」「そうでなければいけない」理想の被害者が創造されていて、助ける側が「与える自分」に酔っている。優越に浸る施しが相手にしか気づかない違和感で世間に蔓延る怖さ。一種の世間的常識ともいえる支配の影が見え隠れし苦しむ人がいる。ストーリーの付加価値を評する残酷さが悲しい。2025/12/17
komorebi20
37
初読み作家さん。著者の初小説。高校生1年の時に盛岡で東日本大震災に遭った被災者という著者なので悩みながら心血を注いで書いた作品だと窺え、とても共感しました。文中の中鵜くんの「忘れない」という言葉の連続のいくつかに私自身の体験や気持ちが重なり、当時を昨日の事のように思い出してしまいました。2025/11/05
Tαkαo Sαito
22
あとがき含め、素晴らしかった。同じ東北で震災経験した近しい年代の者として、単行本のときにはなかなか読もうと一歩踏み出せていなかったのが事実で心の中を読まれているようなあとがきに刺された。読み終わってから心から読んでよかった、良い文章を読ませてもらえたと思える作品。2025/07/06
のじ
9
311は多くの人が多かれ少なかれ影響を受けて、きっと語ることがある人も多いと思う。都市部にも影響が大きかったのでなかなか忘れられない。震災後、いろんなところで語られる機会も多い気がするし、311にかかわる物語などもたくさんある。たまたまかなりテイストの違う311にかかわるお話を続けて読みました。東北にいながら特に大きな被害も受けなかった若者のお話。多感さゆえに傷ついたり受け止めたりすることも多いのかなと思いました。2025/11/06




