内容説明
最期に交わした会話、柩に供えたアップルパイ、死後に読んだ父の手記……そうやって、父の死について書いていくうちに起きた心境の変化は、私の、あるいは、私の哲学の核心に触れるものだった。
哲学者の著者が、父の死をきっかけに書き綴った、喪失と回復の道のりを優しくたどるエッセイ。
「どうしてじいじは死んじゃったの?」
息子の問いに、私はうまく答えることができなかった。
大切な人を亡くしたとき、私たちはどうやってそれを受け止めたらいいんだろう?
【装丁・装画】鈴木千佳子
目次
はじめに
1. 十円玉と骨
2. 死んだらどうなるの
3. 盆踊りの夜に
4. 帰札
5. 聖橋にて
6. 追憶
7. 幸せを感じる練習
8. 死のイメージ――死と孤独α
9. 一周忌
10. 死の抑圧――死と孤独β
11. 喪失の後で
12. ローリー・ポーリー
13. 生きているうちに、死を語る――死と孤独γ
14. 父の手記
15. 母
16. 献杯
訃報を待つ
おわりに
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ
169
哲学を専門としている著者が、父との別れを「群像」にて連載。文章にすることでこの状況を少しずつ受け入れていく。目を瞑ればすぐに浮かんできた姿が少しずつ薄れていく現実は、消え去るのではなく我が身に溶け込んでいくよう。「かなしみを忘れていくかなしみ」言葉は時に言葉を超える。人はなぜ死ぬのか、その問いを永遠に辿っていくしかない。世間には形式的な発言をする人がいるが、それぞれの立場で抱く気持ちはその人にしかわからない。そのままでいい。哲学を理解したとして閉ざすことができないもの、感情とはそれほど深く重いものである。2025/05/04
trazom
119
いい本を読んだ(今年一番かもしれない)。若き哲学者の著者が、発病して一年で逝去したお父様への思い、そして一周忌までの時間に去来した思いを綴ったエッセイ。神話を喪失した現代における「死と孤独」は哲学的課題であるが、自らの体験を通してそのことを語る誠実な言葉の数々に、深い共感を覚える。本書は死を考える随想ではあるが、それとともに、家族の物語でもある。家族一人一人に「かなしみのそれぞれ」があり、「かなしみを忘れてゆくかなしみ」がある。死を巡るエッセイが、「家族って何だろう」という物語として心に沁み込んでくる。2025/06/19
もぐもぐ
49
難病を患い70歳の誕生日に他界した父への想い、家族への想いが綴られたエッセイ。家族の死に対してどう向き合っていくか、自分自身が経験したことと重ねたり、自分の家族がいつか経験することに思いを巡らせながらの読書になりました。著者にとっての父は、同時に母にとっての夫であり、息子にとっての祖父であり、死に対するそれぞれの受けとめ方が温かくユーモア溢れる文章で綴られていました。心癒される内容で、哲学的な話も面白かったです。 #NetGalleyJP2025/06/09
buuupuuu
27
私たちが単なる物体でしかないとしても、私たちは死というものの意味を考える。自分も父親が亡くなったとき、それをうまく理解できていないという感覚が残った。死というものが単なる生命活動の停止ということ以上のことを意味しているということなのだろう。だが現代は、共に死について語り、それを受け入れるための共有されたリソースが欠乏している時代なのだという。人という存在が身近な人々との関係性によって成り立っているのだとしたら、身近な人の死の意味を考えるとは、自分を支える関係性の網目を結び直そうとすることなのかもしれない。2025/09/25
えりまき
22
2025(145)哲学者の岩内さんの父親の死に関するエッセイ。病気が発覚し、闘病生活を続ける父親の訃報を待つ生活から一周忌まで。「訃報を待つ」って誰もがみんな持っている避けられない状態だけど、改めて言葉にすると不吉というか複雑。 2025/06/15




