内容説明
ジャワの港町に生まれた娼婦デウィ・アユとその一族を襲った悲劇。植民地統治、占領、独立、政変と弾圧といった暴力の歴史を軸に、伝説と神話が渦巻く奇想天外な大河小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
54
傑作だ。本書の冒頭の一節を読み終わらないうちにこれは間違いないと実感させられた。実際、最後までだれることなく読み手を引き寄せ続けてくれた。 2日の日記にも書いたが、500頁を超える大作だし登場人物が多くて、新しい人物が登場するたびに手元にメモ書きしていた。メモ片がとうとう四枚に渡った。吾輩は人物名やら人間関係を理解するのが苦手なので、弥縫策ではあるが面倒でも役に立っている。2025/05/03
ヘラジカ
42
猥雑にして超暴力的。恐ろしく屈強かと思いきや、驚くほどにちっぽけで弱々しい。剥き出しで無秩序で、それなのに個々の存在が愛おしくも美しくも感じてしまう。この原始的で剥き出しの人間性が綾なすユーモアとペーソスは、ギリシャ神話に近しいものがあるかもしれない。全編に渡ってえげつない性暴力が横溢しているので、正直に言うと読んでいて苦痛を感じることも多い。しかし、凄まじく強力な物語を浴びるほどに堪能できる傑作である。個性的なキャラクターたちが縦横無尽に暴れまわり、哀しみを覚えるほど華麗に畳まれて無に帰する様はお見事。2025/01/07
ori
20
美しいというだけで男達から邪な欲望を向けられる女、日本軍により娼婦にさせられる女、愛を失う女、強姦される女。オランダ統治時代から戦争、戦後、独立戦争とインドネシアの刻々と変わる政治・社会を背景に、美を巡る男達の欲望がやがて呪いを招くという、美しい女を巡る3世代女性のマジックリアリズム大河ドラマ。女達は皆強く逞しくもある。登場人物は癖のある人間ばかりで、描かれ方は時としてシュールだったり冷めていたりどこかユーモアがあったりで読み飽きない。この作家はこれからも翻訳されてほしい。2025/07/06
おだまん
13
インドネシアのマジック・リアリズム。マルケスばりだけど大変読みやすくて物語に引き込まれていく。重いテーマもこうした手法で触れられてよかったです。2025/07/03
rinakko
12
素晴らしい読み応え。マジックリアリズムの魅力に溢れ、頗る面白くて最初の一文で即引き込まれた。インドネシアの架空の港町を舞台に、オランダ植民地時代から日本軍による占領、独立戦争と大規模な虐殺…という暴力の歴史と、古い王朝の伝説、美貌の娼婦デヴィ・アユとその一族三代にわたる悲劇的かつ闘争に満ちた物語とが、絡み合わされ語られる。時に人を突き放すような振る舞いをするどこか達観したところと、愛情深さとをあわせ持つ主人公デヴィ・アユの人となりが好きだった(そして、冒頭の出来事の意味がわかったときにもっと惚れたw)。2025/01/13