内容説明
春節のときにだけ再会できる離ればなれの家族、
それは宇宙飛行士の家族(アストロナット・ファミリー)と呼ばれた。
1997年、中国本土返還──。
家族のために香港で働き続けることを決意した父を残し、私たちはバンクーバーへ移住した。
三歳半のときに親に連れられて香港を離れ、カナダが「故郷」となった「私」。
カナダで生まれ、すっかり英語圏の文化に生きる妹。
父を残して移住し、幼い子どもたちを育て上げた母。
そして、ひとり香港に残り、働き続けることを決意した父。
父が病床に伏したとき、
家族それぞれの胸中によみがえる孤独、わだかまり、そして温かな想い。
繊細で詩的な筆致で描く、ある家族の物語。
アメリカとカナダで刊行され、Amazon Canada First Novel Award、 Rakuten Kobo Emerging Writer Prize(ともに2022年)を受賞するなど高く評価された、 著者の自伝的デビュー小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
49
あらゆる登場人物に名前はなく、物語は筋立てては語られない。回想、語り、思索などからなる103の短編が、いつしか淡い水墨画のような世界を作りあげていく。作品のテーマは、喪失、悲嘆、苦悩と向き合うこと。そして、自分の感情を言葉にして伝え合うことの大切さ、である。香港統合の際にカナダに移住、父親だけが香港に残り1年の大半を父親不在で過ごした主人公と父親のすれ違いを描いた表題にもなっている「幽霊森林」は切ない話。だが、父親の入院を機に、主人公は積極的に思いを伝えようとする。その父娘の交流の温かさ。2025/06/25
ori
15
香港返還時、多くの家族が父だけが香港に残り家族はカナダやイギリスなどに移住する形をとった。休みにしか会えない父と娘のコミュニケーションは年を追うごとにすれ違う。コミュニケーション不足や世代的な習慣から父は無意識に冷たい言葉で娘を傷つける。娘は父を喜ばせようと画策するがその度に傷つく。そんな父と娘の話の中に、異国に子供と親を連れて移住した母の孤独、才能があり時代的には珍しい女性だった祖母の若い頃の話、日本占領時の話が語られる。皆がそれぞれに傷つき、また誰かを傷つけたことをひっそりと後悔している。 2025/05/14
アヴォカド
10
家族の歴史や家族への想いが断片で語られ、静かに少しずつ積み重ねられていく。詩のように、ふわふわの小さな羽のように。しみじみしてしまった。2025/04/20
ののまる
8
じんわり、ちょっと涙ぐんだり、あーわかるなと思ったりの一気読みです。日本占領期から中国返還前後の香港の歴史的背景を知っていたら、またジワジワくる。2025/07/05