内容説明
明治三十二年四月、詩集「若菜集」などにより、すでに新体詩人として名声を得ていた藤村は、教師として単身、信州小諸へ赴いた――。陽春の四月から一年の歳月、千曲川にのぞむ小諸一帯の自然のたたずまい、季節の微妙な移り変わり、人々の生活の断面を、画家がスケッチをするように精緻に綴った「写生文」。「詩から散文へ」と自らの文学の対象を変えた藤村の文体の基礎を成す作品。(解説・平野謙)
感想・レビュー
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優希
92
写生文が美しかったです。画家がスケッチをするように紡いだ千曲川の歳月。穏やかな山国の人と自然が目の前に浮かんでくるようでした。普通の何気ない暮らしや自然が素朴に描かれているだけでなく、風習や行事まで写し込んでいることで出来上がった絵が素敵だと思います。2016/08/30
Gotoran
41
陽春の四月から一年の歳月、千曲川にのぞむ小諸一帯の自然のたたずまい、季節の微妙な移り変わり、人々の生活の断面を、画家がスケッチをするように精緻に綴った本書『千曲川のスケッチ』。信州小諸の自然と人情を、端正な文章で描写している。その文章は、癖がなく、自然、簡潔、的確であり、感情も澱むところがなく人間愛に満ちている。また、後半に収録されている「千曲川のスケッチ奥義」も大変興味深い。本作品は、藤村が「詩から散文へ」と、自らの文学スタイルを変えるきっかけとなったと云う。2024/06/25
糜竺(びじく)
41
明治末に、詩人として名声を得ていた島崎藤村が、長野県の信州小諸に教師として赴任する事になりました。その時の一年の、千曲川周辺の小諸一帯の自然や人々の暮らしぶりを、スケッチのように描いている写生文です。読んでて、まさに明治の頃の田舎の、全く有名ではない一般庶民の人々の暮らしぶりが、とてもよく垣間見る事が出来ました。あの時代も当たり前ですけど、普通の人達が一生懸命に暮らしていたんだなあと、感じさせられました。また、田舎の何気ない自然の描写も、繊細かつ美しくて素晴らしく、非常に引き込まれ良かったです。2015/03/12
カブトムシ
23
「私は小諸の城址に近い小諸義塾で学生を教えている」「水彩画家丸山晩霞の住む根津村近くの山麓には牧場がある」私の母の生家は、この根津村の滝の沢という集落だった。牧場の近くの滝が流れるところでした。千曲川の支流のそのまた支流だった。「同僚の理学士と古城址を散歩する。天守台に登ると千曲川が眺められ、谷は深くない。」島崎藤村は小諸義塾の教師として、詩から散文に転じ「物を見る稽古」としてスケッチを志した。ラスキンの「近代画家論」、ツルゲエネフの「猟人日記」の範に習っての写生帖。自然と人間との交渉を深く捉えている。
糜竺(びじく)
15
再読。2023/02/25