内容説明
ノーベル文学賞受賞作家、ヘルタ・ミュラーの世界に踏み入るための入口
生の経験と虚構作品の「あいだ」にある、架橋しがたい関係の機微と知と情から練り上げられた魅力を垣間みる珠玉のエッセイ集
本書に所収されたエッセイは、ヘルタ・ミュラーの父母、祖父母から、詩人オスカー・パスティオールを経て、作家ユルゲン・フックス、詩人テオドール・クラーマー、歌手マリア・タナセにいたるまで、いずれも一つもしくは二つの全体主義の刻印を受けた人びとの生を描いたテクストということができるだろう。[……]
ヘルタ・ミュラーの長編小説を読み解くためのサブ・テクストとして、また、彼女ならではの創作論、読書論、歌唱論として読んでいただければ幸いである。ヘルタ・ミュラーのドイツ語は、手でつかめそうなほどに具象的でありながら、個別の事例を越えて普遍へいたるような高度な抽象性を備えている。短く簡潔でありながら、背後に深い経験、広い世界を感じさせる。[……]〈もの〉そのものにひとつひとつの生の経験、さらには歴史経験を語らせるような、凝縮度の高いドイツ語原文での語りを実現すべく、翻訳に際しては意味のみならず、言葉の響きに配慮することを心がけた。ヘルタ・ミュラーはことあるごとに「わたしは言葉を信じていない」と記す、きわめて注意深い書き手である。しかしながら、そう書いている彼女の文章は、読み手のうちに疑いなく言葉への信頼をもたらしてくれる。
(「訳者あとがき」より)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
47
ヘルタ・ミュラーのエッセイ集。表題作は牧歌的だが、中身は真逆だ。何故なら母を飢餓状態に追い込むきっかけになった雪とナチス、そしてチャウシェスク政権に加担した民衆=おじさん達に仮託しているから。自伝的エッセーとも言える「クリスティーナとそのまがいもの」は政権崩壊後の続いていた秘密警察からの圧力とそれに従う周囲からの陰険な攻撃に絶句する。同時に語られる親友ジェニーからの裏切りの理由がまた、辛いのだ。一方、母親のハンケチを使った細やかな抵抗やカネッティの「群衆と権力」への敢えての誤読などの毅然さに背筋が伸びます2025/05/11
ハルト
10
読了:◎ 著者は言葉を信じていない。それがまた強さにもなる。辛酸を舐める体験をし、友人たちにも裏切られたことがわかり、苦渋を舐める。そう、地を這って舐める裏切りの味。なんとつらい味だろう。それだけで、普通なら挫けてしまいそうだけれど、彼女は違った。スパイとして結局会社を辞めさせられた時の、挫けない芯の強さ。彼女の行くところにある影の濃さが増そうとも、起き上がる。彼女の気丈さがこのエッセイには詰まっていて、全体主義の恐ろしさ醜悪さに、書くことで抵抗している姿の力強さには、心打たれ励まされる気持ちになった。2025/06/18
ankowakoshian11
2
ヘルタ・ミュラーのエッセイ集。ドキュメンタリー『コレクティブ国家の嘘』の背景の補完になる箇所がある。非常に聡明な文章と事象への解像度。2025/05/08
葛
0
2025年2月28日第1刷発行 著者:ヘルタ・ミュラー 訳者:新本史斉 発行者:前田俊秀 発行所:株式会社三修社 DTP:ロビンソン・ふぁくと(川原田良一) 印刷所:萩原印刷株式会社 製本所:牧製本印刷株式会社 装幀:宗利淳一 定価3630円(本体3300円+税10%) マリア・タナセの歌2025/05/26
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