内容説明
同じ仏教なのに、なぜ宗派によって教えが違うのか? その根源を見る。
宗派とは何か? なぜ多種多様な教えがあるのか? 世界の今を解くカギは、すべて歴史の中にある――。誰もが一度は耳にしたことがある「歴史的事件」と、誰もが疑問を抱く一つの「問い」を軸に、各国史の第一人者が過去と現在をつないで未来を見通すシリーズの第9弾! 釈迦が説いた「自己鍛錬」のための仏教は、いつ、どのようにして部派に分裂し、その後、なぜ「衆生救済」を目的とする大乗仏教に変容したのか? そして、日本仏教が世界で最も「特異な仏教」とされる理由はどこにあるのか? 科学にも通じる仏教学の碩学が自身の学説を軸に仏教界の大いなる謎に迫る。
【内容】
[事件の全容]
第1章 仏教は、どのようにして部派に分裂したのか?
[歴史的・宗教的背景]
第2章 なぜ、インドで仏教が起こったのか?
[仏教世界へのインパクト]
第3章 大乗仏教は、どのようにして生まれたのか?
[後世への影響]
第4章 「時代の要請」によって変容した日本仏教
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
to boy
25
インドで仏教が生まれた背景、その仏教がいろんな部派に分かれながらも対立することなく同じ仏教という意識だったとのこと。やがて大乗仏教がうまれそれが中国にわたり変質してやがて日本に到達。日本でも政府の援助を受けながら変質していく様がわかりやすく記述されていて良本だと思います。中世の僧兵のように暴力を容認するのは律蔵を持たない日本仏教だけの特質。戦後の新興宗教が乱立した理由、現在旧来の仏教も含めこれからの仏教に期待しながら語り終わる著者の静かで優しい人柄がうかがえました。2025/05/04
原玉幸子
22
私は「日本の仏教はインド哲学の理念から中国を地理的に介して根付いた」と漠に認識しているのですが、×上座部、○上座説仏教、天台宗の密教ぶり、政治と仏教の結び付き、「あるがままでよい」を唱えつつも、故に僧兵他の暴力性を認めて来た史実(翻って悲しく思うに、我々はユダヤ人のガザ侵攻を非難出来ないのか)等々、其々もう少し掘り下げて知っておくべきだった内容が並んでいて……反省頻りです。でもやはり宗教心は哲学に包含される気がするし、もっと言えば、宗教様式は哲学にとっての下部構造でしかないのでは。(◎2025年・夏)2025/06/14
鯖
15
釈迦の時代は僧4人、その後は僧が10人いないと新たに僧を生み出すことができなかった。そのため鑑真が頑張って渡航してくれたのだが、彼が同時に持ち込んだ律蔵は全く機能していない。仏教を守るためならば僧は暴力をふるってよい。結婚してよい。酒を飲んでよい。あるがままでよい。…まあ葬式仏教にも宗教屋にもなるはずである。それはそれでいいとは思うんだけど。2025/08/23
さとうしん
14
仏教の発祥から多数の部派への分岐と仏教の多様化、日本での展開を概観。仏教に関する基本事項をわかりやすい筆致でかいつまんで説明してくれている。部派の分岐の実相は中国の百家争鳴、あるいは儒家の学派の分岐を考えるうえでの参考になるかもしれない。日本仏教については、従来のほぼすべての仏教思想ほ包含する広大な宗教世界を構成していると多様性を評価しつつも、当初から律蔵を欠いたことから、伝統敵に僧兵や一向一揆、近代に戦争協力をするなど、間接直接に暴力を肯定することになったと批判する。2025/03/01
アルカリオン
11
(特に一定の予備知識を持っている人にとって)わかりやすく、信頼でき、深い示唆が得られる本の書き手の第一人者と言えるのが筆者の佐々木閑氏。数年前の他の本で「語族」を人を表す用語として誤用していたのはご愛敬だったが、本書ではその反省を踏まえてか「語族」という単語を使わずに正確な表現が用いられている▼私は臨済宗・曹洞宗それぞれの僧に師事しているが「信仰心」はあまりない。まさに著者の言う「釈迦の仏教」の信奉者であり実践者であろうとしている▼日本の仏教は世界仏教史を逆流するように発展したというのは面白く、慧眼。2025/06/12