内容説明
君に、このバトンを託す。蝶の羽ばたきを受け、彼らは立ち上がる。
太平洋戦争末期。前線も本土も戦場だった。数え切れない命が散った。
南方戦線でただ一人生き残った尾崎、東京大空襲で家族を失ったさくら。前線でさくらの兄に命を救われ、厚生省職員となった尾崎は、大物政治家の助力を得て民間戦争被害者への国家補償の実現を目指す。
そんな尾崎の身辺に次々と不審な出来事が起き、署名運動を始めたさくらも思わぬ妨害に遭う。
何者かの思惑。官僚組織の論理。見え隠れする特務機関の影。立ちはだかる時間の壁。
時を経て、世代を超えて、それでも彼らは命がけで思いをつないでいく。
信じ続けること。伝え続けること
終戦から80年。深い祈りを込めた、著者の新たな代表作!
目次
第一部
一章 戦場のバタフライ―一九四五―
二章 下町の紅夜ー一九四五―
三章 モノトーンの街―一九四五~一九五三―
第二部
一章 決起―一九七二―
二章 顔のない群れ―一九七三―
第三部
一章 最後の夜―一九八二―
二章 どうか虹を見てくれ―一九九五―
補記
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
153
戦争とは自分の意志を敵に強要することを目的とした実力行使だ。人が他者を思う通りに動かしたいと望むのが政治であり、政治がある限り戦争は続く。戦地に斃れ戦火に焼かれる人の犠牲が増えようと、自らの正義を信じる政治は絶対に責任をとることを拒む。そんな政治に対して親しい人を失い、傷つき苦しむ庶民が決して諦めずに、戦争責任を認めさせようと戦い続ける姿が本書のテーマか。彼らの闘いは強大な政治の前に敗北と挫折の連続だが、生涯をかけて声を上げるのをやめない。人の業たる戦争は今後も起こるが、反戦も人であるからこそなのだから。2025/04/03
いつでも母さん
138
凄いのを読まされた。前半は何度も苦しさで涙した。後半は憤りと虚しさが勝った。圧巻の書き下ろしに天晴れの読後感。後の世代が(もちろん今の世代も)道を誤らぬようとひたすら願うばかり。2025/04/03
hiace9000
128
エンタメ系警察小説路線から一転、深煎りの史実と想像のハイブレンドで、コク深く苦みも効かせた読み応え圧巻の戦中・戦後史大作ここに! 死線を潜り抜けた祖父が恩人から託されたノートに残された願い。東京大空襲を生きのびた少女の行動。蝶の羽ばたきに過ぎない願いと行動は、時を超え命を繋ぎ、やがて―。太平洋戦争末期から現代まで、幾度の厄災からも復興し、表面上の姿を変えながらも今なお本質は何も変わることができぬ日本。そのありようにも鋭く切り込む。戦後80年の節目、過去から未来を照射する光は、嵐の後の虹を見せるのだろうか。2025/05/22
しんたろー
108
伊兼さんの新作は、今までに発表していた作品群とは大きく異なる太平洋戦争にまつわる長編…前半は戦中の南方戦線の過酷な状況&東京大空襲の悲惨な状況がつぶさに描かれていて、胸が痛み涙が滲んだ。後半は戦後の戦災被害者への国家補償を年代を追って描いていて、勉強になることが多い…こう書くと小難しい歴史ものと思われるだろうが、共感できる登場人物、サスペンス&ミステリの味付けがしてあるので飽きる事無く読み進められた。戦後生まれの私としては無知で不勉強であるのを恥じつつ「無関心ではいけない!」と強く思わされた。必読の力作!2025/05/12
えんちゃん
71
文字は読まれるためにある。おそらく伊兼さんは作家としてよりもジャーナリストとしての矜恃でこの物語を描き下ろしたのだろう。前半の南方戦地での軍医パートは、先日読んだ救命医の激務がぬるま湯に思えるほどの大地獄だった。空襲がなく、みんなが笑って、美味しいご飯が食べられて、大好きな人たちと一緒にいられること。戦時中に『天国』と思われた理想の生活にいるのに、我々は幸せを感じているだろうか。ラストは胸の震えを抑えられず涙。戦後80年の節目に相応しい圧巻の大作でした。2025/05/29
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