内容説明
本書は、『法学セミナー』786号(2020年7月号)の特集記事を収録しています(連載など、ほかのコンテンツは含まれておりません)。「芸術と表現の自由」1919年は、表現の自由にとって特別な年である。この年、アメリカ合衆国最高裁判所が下したある判決に、ホームズという裁判官が付した反対意見の中で、その後の憲法論を決定づける表現の自由保障の「基本形」が芽吹いたからである。それは、「思想の自由市場」と「明白かつ現在の危険」という2つの法理をパッケージ化したものであった。2019年は、その「基本形」生誕100年にあたる年であった。その年に、『表現の不自由展・その後』を含む「あいちトリエンナーレ2019」を舞台とした事案が発生したのは、偶然とはいえ、誠に象徴的である。この特集では、百寿のお祝いにかえて、表現の自由の現在を改めて問い直すことにしたい。芸術とはどのような意味で憲法問題なのか、表現の自由は果たして文化的創造性にとって意味があるのか、等々の根本問題を提起すると同時に、「あいちトリエンナーレ2019」事案についての法的・文化政策的論点を考察していこう。――――駒村圭吾【総論】表現の自由・憲法問題としての芸術――表現の自由保障“生誕100年”に寄せて……駒村圭吾・アートマネジメントから観た“表現の自由”再考――近代と脱近代の相克……井出 明・表現の自由の現代的論点――〈表現の場〉の〈設定ルール〉について……横大道 聡【各論】あいちトリエンナーレ2019問題・あいちトリエンナーレ2019問題の事案紹介……山邨俊英・憲法で見る「表現の不自由展・その後」――契約は憲法を超えるか……中島 徹・あいちトリエンナーレ2019と争訟手段――補助金不交付に対する行政争訟を中心に……平 裕介・補助金行政法の宿痾……堀澤明生・文化専門職と表現の自由……太下義之