内容説明
◆第一歌集
風に夜に都市に光に怯えてる僕の背中を登りゆく蟻
「風」「夜」「都市」「光」、つまり「僕」は自然と人工からなる世界の全てに「怯えてる」ことになる。だが、その「背中」の絶壁を登りゆく小さな「蟻」は、怖れという機能をもたない勇気の塊なのだ。
(帯より:穂村弘)
◆自選十首より
うろこ雲いろづくまでを見届けて私服の君を改札で待つ
麦揺れて風はからだをもたざれど鳥類であることをみとめる
掌のうへに熟れざる林檎投げ上げてまた掌にもどす木漏れ日のなか
放課後の窓の茜の中にゐてとろいめらいとまどろむきみは
りすんみい 齧りついたきりそのままの青林檎まだきらきらの歯型
さみしいときみは言はない誰のことも揺れるあざみとしか見てゐない
鉄道で自殺するにも改札を通る切符の代金は要る
たぶん親の収入超せない僕たちがペットボトルを補充してゆく
放たれし鳥たちよわが手を離れ一点のあるがごとき静夜へ
送電線の向うの雲がちぎれたら適度な距離ではじめよう、また
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
コットン
63
時間経過の余韻の表現が上手い人だと感じました。例えば「うろこ雲いろづくまでを見届けて私服の君を改札で待つ」「積乱雲に呼ばれたやうな感覚を残して夏の曲馬団去る」「いまひどい嘘をきいたよ秒針のふるへのさきが未来だなんて」2017/11/13
ちぇけら
24
水溶性のなみだ落つ 夜ばかり誰とも溶けあはずに寝ねたし。勇気はいつも無色透明で、ぼくはクラウチングスタートの形ばかりを気にして走り出すのが怖かった。背筋からまっすぐにのびる翼の幻影、一瞬の過失は永遠の損失になるだろう。そう考えて食べる真冬の棒アイスは世界でいちばんあまい。銀世界。きみがしゃべって吐きだされた空気があたりを真っ白に染めた、だからきみの言葉はぼくの耳にまで届かなかった。ぼくはきみが愛しくてたまらなくて、やっと踏みだした足で新雪を踏みつけた。そのときぼくは、恐怖からほんとうに解き放たれたんだ。2019/12/09
はやしま
17
言葉が技巧に走っていると感じるところがあるのは処女作故か。評者の種村氏の言葉にもあるが、懸命に自分の世界を「作って」いる印象。しっかり地に足をつけて立とうとしながら見ている世界を歌っている。その足元はおぼつかなく切り取られた風景は狭く感じる。現代の若者の等身大の姿かもしれない。昨今のJ-POPSに近い世界を感じる。主観が強く俯瞰性はやや乏しい。IとIIに受け止めやすい歌が多い。鳥が歌がちょこちょこあるのは解放されたい気持ちの表れだろうか。III以降は生活感が強くなる。あとがきがよい。2018/06/21
りか
12
今年の年賀状に彼の歌を使わせていただいたほど…グッと来る歌集です。硝子のように透きとおった部分と硬質な部分とのバランスが絶妙!!20代~30代の彼と年齢の近い方には私なんかより更にグッと胸に来るのではないかと思います。 “靴紐を結ぶべく身を屈めれば全ての場所がスタートライン”“たぶん親の収入越せない僕たちがペットボトルを補充してゆく”“こんなふうに背中合はせのまま君は君の夜明けを眺めればいい”2013/02/24
かみしの
11
「夏の曲馬団」をはじめとした連作からは圧倒的な抒情が立ち上ってくる。この瑞々しさはやはり夏とロックの、あの抒情に近い。〈ああ檸檬やさしくナイフあてるたび飛沫けり酸ゆき線香花火〉〈青空に浮かぶ無数のビー玉のひとつひとつに地軸あるべし〉〈鉄道で自殺するにも改札を通る切符の代金はいる〉あげはじめたらきりがないけれど、とにかく夏の、あの雲の、あの一瞬の、すぐ崩壊してしまう感覚が半透明な言葉でうたわれている。あとがきを読んで、なんだか他人とは思えなかった。2017/06/19




