内容説明
東北地方の旧家・不村家では数代に一度、特別な子供が誕生する。人智を超えた才知を授かることから繁栄の兆しと崇められる一方、「あわこさま」と呼ばれる怪異があると畏れられてもいた。異形の奉公人たちの手で守られる平穏な日常が闖入者により瓦解したとき、人々は思い出す。――あわこさまは、不村に仇なすものを赦さない、と。「水憑き」一族の栄枯盛衰を描く、危険すぎるホラーミステリ。(解説・朝宮運河)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あたびー
29
宮城県の山中の集落に、産婆を生業とする一族、不村家には「あわこさま」と言う憑き物がいると言う。あわこさまに妬まれるため身体に障碍を負う者だけを雇い、一族以外で障碍のない者は一人で屋敷内に入ってはいけないなど謎の多い不村家の、戦後すぐから百年程の足取りを描く連作短編。文章が端正である事、会話文が自然である事で初読ながら作者に良い印象を持った。一族の厭わしい運命と、「フリークス」「エレファント・マン」「孤島の鬼」の系譜を引く異形のものたちの哀しみを描く恐ろしくも美しい物語だった。2025/04/07
よっち
29
数代に一度、生前に躰を「お納め」した子が生まれる東北地方の旧家・不村家。異形の一族の昭和から現代に至る年代記を描いたホラーミステリ。人智を超えた才知を授かることから繁栄の兆しと崇められる一方、陰には「あわこさま」と呼ばれる怪異があると畏れられ、特別な子どもの世話を出来るのは同じく異形の奉公人たちのみ。各時代の人物の視点から綴られていく物語はそれこそ時代によって様々で、土地に憑いているあわこさまの力はなかなか強力なものの、あくまで守っているのは家であって、逃れられず積み重なってゆく一族の呪いが印象的でした。2025/03/27
イシカミハサミ
14
――東北地方の旧家・不村家では数代に一度、特別な子供が誕生する。 ――奇妙なことに、不村家の奉公人は、すべて異形の者だった。 プロローグの舞台は1898年春。 奇譚の定番に思える始まりだけれど。 その後のエピソードの舞台は、 1978年夏、 1977年春、 1978年秋、 1998年春、 2032年初夏、 20**年春、と続く。 地表をコンクリートで覆って、 片手に端末を持って過ごすようになっても、 今は常に過去の上に成り立っている。 確かにあった、業の物語。2025/04/14
まめ
7
とある憑き物筋の一族を描いた年代記。恐ろしさと美しさと愛憎がぐちゃぐちゃに入り混じった世界観がたまらん。面白くて一気読み。科学技術の発展で怪異がどんどん淘汰されているけれど、全部が全部消えるわけはない。いつか異形コレクションにも出てほしい作家さん。2025/03/27
犬都歩
3
水子たちに憑かれ、奇形の者たちと共存しながら繁栄と没落を繰り返す一族の連作短編。おどろおどろしさは薄く、登場人物がみな人間らしい惰弱さをもつ中、序盤で語られる少年と少女だけがある意味超人的な強靭さで生涯貫いた愛の話でもある。といって叙情的すぎることなく、抑制のきいた文章が好印象。ただ終盤でいきなりBLが始まってちょっと困惑。しかもストーリー上の必要性があるというよりは作者の趣味なんだろうなという感じの。いやまあいいんだけど。「白木蓮」の誘拐犯の死に様はもうちょっと詳細に書いてくれても良かった。2025/04/19