内容説明
先の大戦で230万人の軍人・軍属を喪った日本。死者の6割は戦闘ではなく戦病死による。
この大量死の背景には、無理ある軍拡、「正面装備」以外の軽視、下位兵士に犠牲を強いる構造、兵士の生活・衣食住の無視があった。
進まない機械化、パン食をめぐる精神論、先進的と言われた海軍の住環境無視……日中戦争の拡大とともに限界が露呈していく。
本書は帝国陸海軍の歴史を追い、兵士たちの体験を通し日本軍の本質を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
108
前作も読んだ時、愚かな戦争だったことを感じたが、今回も前回以上に驚く内容だった。書かれているような内容で戦争を本気でやっていたとは信じられない。山本五十六が戦争が始まったとき、アメリカには勝てないと言ったそうだが実際アメリカで見たことと比較していたのだろう。病気に苦しむ兵士、歯が痛くても治療する医師がいない、乾パンは硬すぎる。戦争末期には精神障害者が続出、補給路を絶たれ飢え死にする。雨で濡れっぱなしなのに防水カッパがない。粗末な装備他、普段触れられないような事をこの本は伝えてくれる。図書館本2025/03/02
skunk_c
90
「あとがき」で著者も告白しているように、名著の前作から時間が経ったのは史料の危うさだろう。何しろ都合の悪いものは燃やしてしまったのだから。本作は前作を補完する内容で、日清~日中の戦争時の日本軍を概観しているのがありがたい。また、海軍の問題点にも踏み込んでいるが、ちょっと浅いかな(軍艦としての欠陥があったという他の著作もあるが触れられず)。ともかく読めば読むほど暗澹とした気分になる。自動車、軍靴から蚊帳に至るまでそのお粗末なこと。さて、都合の悪い史料を隠すのは未来の歴史研究に困難を残すことを肝に銘じるべき。2025/02/08
ちさと
33
作戦第一主義が災いし、食料・医薬品などの補給が途絶。国力を無視して戦線を拡大し、無理な召集の結果、弱兵や老兵が軍隊の中の大きな割合を占めたアジア・太平洋戦争下の帝国陸海軍。全戦没者の6割以上が戦闘ではなく戦病死者という現実に、兵士の「生活」「衣食住」に大きく焦点を合わせて分析したのが本書。兵士の生活に全面保障を与える、故に全面的な絶対服従を兵に要求できる。それが崩れた時、既に戦争には負けていたのかも。圧倒的戦力差とはよく言ったもので、アメリカ軍はJeep、日本軍は馬、牛、象、徒歩である。2025/05/04
さとうしん
19
今回は明治からアジア太平洋戦争まで時代幅を広げて英米軍などとの比較も加えつつ日本軍兵士の徴兵、兵士の食事と栄養状況、衛生環境と病気の治療、軍備と機械化などを検討。飯盒炊爨の導入が却って薪の調達や調理などで兵士の体力を奪ったことや、薪の必要性から戦地で現地民の住宅の破壊などが行われたこと、食糧の不足から戦地どころか沖縄も含めた国内でも農民などからの食糧物資の略奪が行われたといった事実が興味深い。結局は英米と違って将兵に対する「人間軽視」の発想が軍自身の弱体化を招いたというのは、現代政治への教訓となるだろう。2025/11/02
Satoshi
18
話題の親書の続編。本作では医療・設備・車両・戦艦の面で日本帝国軍の人命軽視を記載している。軍艦に食事用のテーブルすらなく、徒歩と軍馬に頼った移動、精神医学を無視した診断、伝染病の対策不足と精神論でアメリカに勝とうとしていたのか。また、日本は産業が効率的でないため、軍人比率が他国より少ないことも初めて知った。補給もままならない状況では略奪が横行することは自明であり、太平洋戦争を賛美することは逆に戦死者への冒涜なのではと思ってしまう。2025/05/08




