内容説明
ときは文政、ところは江戸。武家の娘・志乃は、歌舞伎を知らないままに役者のもとへ嫁ぐ。夫となった喜多村燕弥は、江戸三座のひとつ、森田座で評判の女形。家でも女としてふるまう、女よりも美しい燕弥を前に、志乃は尻を落ち着ける場所がわからない。
私はなぜこの人に求められたのか――。
芝居にすべてを注ぐ燕弥の隣で、志乃はわが身の、そして燕弥との生き方に思いをめぐらす。
女房とは、女とは、己とはいったい何なのか。
いびつな夫婦の、唯一無二の恋物語が幕を開ける。
第10回野村胡堂文学賞、第44回吉川英治文学新人賞、二冠の作品がついに文庫化!
カバーイラスト/おかざき真里
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
sin
51
好いた惚れたが変わらぬ様に、タレント・アイドル、芸能ゴシップ、江戸のむかしから現代にいたるまで世間のサガは変わらない…芝居と云う虚構の、演技と云うまことに惚れた女房の真実を世間は知らない。女形の手本に選ばれた武家の娘の嫁入りが、手本を越えて実と成る。形ばかりの武家の作法は、演者の本質に触れて揺らぎに揺らぐ…武家の父との対決や、貞淑な母の本音に後押しされて、武家の娘は己の本音に目覚めはじめ役者の女房へと身を転ず、舞台を降りる夫の前に立ち塞がって、夫を死地へと追いやるは、これぞ役者の悪女房…チョン!2025/01/30
いっこう
13
読みたかった蝉谷さんの作品。女形の燕弥の女房となる主人公の志乃。主人公の妻として生きることの描写が良かった。出来ればもっと長いお話で読んでみたかったなー。文庫版はおかざき真里さんの装画が綺麗。2025/07/13
PAO
13
「武家から嫁いだこの女、芝居を知らず、役者も知らず、武家のお仕来りを舞台に持ち込む面皮の厚さ」…時姫、清姫、雪姫、八重垣姫といった歌舞伎の演目の中でも際立つ武家の姫たちの話にからめてそれを演じる女形燕弥とその女房志乃の恋物語。呼込から幕引、そしてまた呼込に戻るという凝った構成で、脇を演じる登場人物の役者の女房お富とお才も魅力的で実に良くできた小説なのですが、癖のある独特な文体にはかなり手を焼き読むのに苦労してしまいました。この文体が作者の持ち味なのでしょうが読者を限定してしまいそうで惜しい様な気もします。2025/03/26
flower0824_
10
武家の娘・志乃は、歌舞伎の女形・燕弥に嫁いだ。燕弥は家でも女の姿で過ごし、役に入れば食の好みや性格も変わってしまう憑依型の役者。志乃に縁談を持ち込んだのも武家の“姫”を近くで観察するため、役作りのためであったのだが、実家で父親に抑圧されて育ち、自分には価値がないように思っていた志乃は、旦那さまのお役に立てると喜ぶ。なんというか、歌舞伎役者の世界、それも夫婦のことは凡人には理解しがたいなと思った。それは同じく女形の妻である、お富やお才にも言えるけれど。2025/02/12
クレイン
7
色々と設定を理解することに時間がかかった。 燕弥と志乃との関係は絶妙だと思う。 言葉以外にも通ずる方法はある。 舞台というものを通じて人の価値観が形成されるのも興味深い。 自分の知らない世界はやはり楽しい。2025/02/19