内容説明
無信仰な僕が、一生の間に経験した宗教的現象を次々に想い起すと、これらが単なる偶然な経験ではなくて、偉大な神のはからいによって経験させられたのであろうかと、自然に考えるようになった――人生九十年、心に求めて得られなかった神が、不思議な声となって、いま私に語りかける……。芹沢文学の集大成、九十歳から年ごとに書下ろした生命の物語〈神〉シリーズ。(解説・大岡信)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
98
作家である「私」と「神」との関わりを描く長編。ここで言う「神」とはキリスト教の神ではなくて、この宇宙を支えている超越的な存在のことである。作者が90歳を超えた時の作品だが年齢を感じさせない瑞々しい文体が印象に残った。傑作や名作とは言い難いが、人生や人間の存在を肯定する透明な明るさが漂っていて、清々しい読後感だった。当時死の病だった結核にかかって、仏のサナトリウムで療養している時に死の淵を覗きこんで、作家になろうと決意する場面がこの小説のクライマックスだと思う。2014/12/21
優希
81
「神」と「私」との関わりは生命の証のように思えました。フランス留学と絡めながら語る経験は偶然ではないという感じ方が印象的です。自然に全てが神の計らいと考えるようになったのはおそらく宗教的な感覚ではなく、神の存在を宇宙そのもののように捉えているからでしょう。特定の宗教にこだわらずに神と結びつくのは、ある意味で理想の信仰と言ってもいいのかもしれません。2017/07/01
いと
8
96歳で老衰される年まで毎年一冊書き続けた(本人は神様に書かされたと言ってます)”神シリーズ全8冊”の① 日本を代表する文豪さんらしいですが、始めて読みました。すごく読みやすく楽しく読みました。なぜかシリーズ中、これだけ文庫化してるみたい。次の「神の慈愛」って本が図書館にあるらしいけど、検索したらまだ貸し出し中だよ~目っけモン見つけた♪と誰も借りてないだろうと思ったのに(笑) キリストさんもお釈迦さんも教祖さんも、み~んなおんなじ神様なんだって。純粋な信心も組織になったらダメだって言いたいのカナ。2015/01/25
subuta
3
宗教によらない信仰を説いているようだ。とは言っても、積極的に神の存在を読者へ教えようとしているわけでもない。2019/10/09
ソングライン
3
巴里に死すを読み、この本も読んでみました。若き日、フランス留学中に結核を病み、サナトリウムで療養することになった作者はそこで、物理学者のジャックと知り合い、彼から神の存在を教えられます。その後フランスでも有名になった作者の精神史を表した作品ですが、50年後ジャックの消息が分からなかったのが、残念でした。2017/02/14