内容説明
中学受験も塾も、まったく未知の世界だった。
挑む子供たち、信じる教員たちの姿が心に残る。今野敏
「大切なのは『どこ』にではなく『どこか』に受かることだろう?」
二岡教場で中学受験組の担当だった曽谷は、生徒獲得至上主義の教場長の言葉に反感を覚えていた。
ある日、カンニング騒動に巻き込まれた曽谷は、グループでも屈指のエリート教場・北沢教場へと配置替えとなる。
指導のしがいがあると張り切る曽谷だったが、北沢教場には、最難関男子校を志望する宮井、気弱な性格ゆえに志望校に迷う松川、勝気な女子生徒戸畑など、気配り必須、寄り添い必須の悩める生徒が集まっていた。
「絶対合格」「より上の学校へ」を課せられた新人講師・曽谷は、彼らを合格させることができるのか。
加熱する中受を現役講師が描く、受験エンターテインメント。
第7回大藪春彦新人賞作家
鮮烈なるデビュー作
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
TAK.I
20
中学受験の大手塾教研ゼミナールを舞台にした物語。塾講師目線の話は珍しい。塾講師経験者の著者が成せる技だ。都内の私立中学進学率は2割を超え、受験率は5割を超える区もある。競争社会だ。子どもを思う気持ちや気遣いが逆に子どもの意欲を奪うこともある。子ども自身が受験の意味を見出すのは難しいが、挑む中で意識が変わっていくのだと思った。加熱する受験戦争に賛否はあるが、全力で指導する塾の教員たちも命をかけていて生半可な気持ちではない。真剣に向き合う曽谷。自分の過去にも悩みながら、生徒とともに成長していく姿が素敵だ。2025/02/18
雪丸 風人
14
主人公は中学受験塾の若い講師。偉大な前任者の後を継いだ彼が、迷える子どもたちと真摯に向き合い、奮い立たせ、自身の迷いも断ち切っていきます。後半にかけて面白さが増しますね。特に夏合宿からの展開に読んでるこちらもヒートアップ!序盤はちょっと入り込みにくいかもしれませんが、志望校が話題になるあたりから止まれなくなるはず。出番は殆どないにもかかわらず、”理想の先生”の言葉に多くの学びや気づきがありました。確かに合格だけがゴールでは惜しい。何度かある主人公が檄を飛ばす場面も好きですよ。(対象年齢は14歳以上かな?)2025/04/01
mame
5
安孫子正浩著『教場の風』読了。中学受験については全く縁が無かったが、本作で知ることが出来た。まだまだ経験の浅い小学生の頃に大きな目標に向かう姿は並々ならぬ努力が必要だと思った。限られた時間の中、受験当日に向けてスケジュールを進めるプレッシャーは、本人のみならず、親や講師も相当なものなのだと思う。ひとつに向かって進む絆の形成過程は熱いものを感じた。全ての中学受験に向かう学生たちが、本書のカバー絵のような爽やかさで次のステージに進める事を願うばかりである。2025/01/13
防災レンジャー
3
勉強は好きだけど、大手塾嫌いと言う偏見。なぜ中学受験をしたいのか?親のエゴ、子供がかわいそうと思っていたけど。塾で子供たちを教えている先生方の姿勢や生き方に打ちのめされた。あきらめないこと挑戦すること。自分の人生をごまかさないこと。小学校6年生でそれらを体験する子供たち。一気読みだね。面白かった。2025/04/08
トト
3
中学校受験を目指す大手塾講師の1年を描く小説。都会の雰囲気。「お受験」と揶揄にも似た言葉で表現された低年齢の受験のことは、一昔前にニュースや小説、ドラマなどで見かけた。その頃のままの雰囲気でした。何十年も変わらないことに、ある意味戦慄します。勝つ人と負ける人を分けようとする仕組みが存在することに。生物の性か。2025/03/25