内容説明
名探偵は「事件」の謎を解き明かし、
小説家は現場となった「建築」の謎を解く。
『グリーン家殺人事件』(ヴァン・ダイン)が書かれてから九十六年、『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎)から九十年、『虚無への供物』(中井英夫)から六十年。いまでも謎解きのミステリは世界中で書かれ続けています。
ミステリの核となるトリックは、事件の舞台となった建築にこそ隠されています。
また、時代が移り変わる中で、春風のように颯爽と登場した近代建築の中にも多くの思念と謎が秘められています。
この本では、前半に「鹿鳴館」「中銀カプセルタワービル」「水晶宮」などの近代建築から建築に潜むミステリを読み、後半では『Yの悲劇』『ねじれた家』『悪魔が来りて笛を吹く』などの名作ミステリから近代建築を論じます。
本格ミステリ「建築探偵桜井京介の事件簿」シリーズなどで有名な、建築を愛する小説家・篠田真由美さんが紐解きます。
建築に潜むミステリを、ミステリの鍵となる建築を解き明かす一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
133
実際の建築物を見るのも、ミステリの舞台となる邸宅大好き。その両方についてイラストと共に愛を以て語られる文章は、楽しく愉快な時間を与えてくれる。実際に内部も見たのは65頁のドルマバフチェ宮殿だけだが、影山伯爵夫人と鹿鳴館での政治陰謀事件に遭遇したり、グリーン家やハッター家の図面を見ながら殺人犯を追った昔が懐かしい。ヴァン・ダインやクイーンが事件の舞台となる豪邸の設計図を掲載し、小栗虫太郎や横溝正史が踏襲したからこそ後の新本格派が誕生したのではないか。建築とミステリは最も相性の良いものだと再認識させてくれる。2024/05/12
ばう
56
★★ 第一部では実際にあった明治以降の建築の「何故」について、第二部はミステリの中に登場する建築についての「何故」が論じられています。面白い内容だと思うけど建築に興味はあるものの、それほど知識の無い身には些かとっつきにくいところも。でも大昔に読んだ『グリーン家…』とか『Yの悲劇』とか『ねじれた家』は久しぶりに読み返したくなりました。未読の『虚無への供物』はちょっと惹かれるけれどどうなのかなぁ?2024/11/22
雪紫
56
桜井京介シリーズの篠田さんによる昔の近代建築と(勿論今も残ってるのアリ)、ミステリに綴られた幻の建築とエッセイ(なんと「翡翠の城」まであるよ!)。原作だと、イメージしづらかったが「髑髏城」が髑髏だし「ねじれた家」絵で見ると横に広い・・・(てっきり木みたいな感じを想像してた)のはさておき、見取り図を見るだけでもどうしてこんなに心惹かれるのか。館、建築ミステリにはその見取り図に謎と館の光景が付いてくるからだ。細かく建築、ミステリを語ってくれるのだから読んでて楽しい。・・・色々読み返したくなるしね。2024/04/07
よっち
36
ミステリの核となるトリックは、事件の舞台となった建築にこそ隠されている。建築を愛する小説家・篠田真由美さんが建築に潜むミステリと、ミステリの鍵となる建築を解き明かす1冊。本書は前半に「築地ホテル館」「鹿鳴館」「中銀カプセルタワービル」「水晶宮」などの近代建築から建築に潜むミステリを語り、後半では『Yの悲劇』『ねじれた家』『悪魔が来りて笛を吹く』『虚無への供物』などの名作ミステリから近代建築を論じる構成になっていて、ネタバレに配慮しながらとにかく楽しそうに語る著者さんの建築論、ミステリ話が面白かったですね。2024/05/06
練りようかん
14
建築探偵の篠田さんが書く建築エッセイなら面白いに違いないと期待。実在した建築の謎を浮かび上がらせる趣向がいい、Case01の築地ホテル館は知らないことばかりでしかも設計者は今の清水建設!と情報によって押し寄せる興奮が凄かった。大好きな中銀カプセルタワーも登場。ふさわしい事件を考えるなら、も楽しい。「建築とは実用性と同時に精神性を孕んでいるものです」の一文がドンピシャで惚れ惚れ。そしてフィクションの建築も紹介。リスペクト&解体分析、再現イラストの中では『ねじれた家』の3つの客間が最も興味深かった。良かった。2024/05/15