内容説明
「『白人』の音楽が大好き」「『男流』文学がいいよね」
とは誰も言わないけれど、
「黒人文化は素晴らしい!黒人音楽が好き!」と人は言う。
いったい「黒人」とは、何を指すのか?
「黒人」「白人」はたまた「アジア人」「ユダヤ人」と分離して人数を数え、
極右からリベラルまでが陥るアイデンティティ至上主義の問題点を、
公民権運動の歴史から消された黒人少女の伝記、
そして現代黒人女性のリアルな日常から浮かび上がらせる。
シモーヌ・ヴェイユ文学賞受賞のユニークな反レイシズム・エッセイ集!
最近のこと、「まあ、あなたは運がいいですね」と、
白い肌の若い女性がため息をつきながらわたしに言った。
「少なくとも、あなたには『出自(オリジン)』があるじゃないですか!」
なぜあなたは自分にそれがないと思っているのですかと尋ねると、
彼女はこう答えた。
「え! だって、わたしは白人ですから」
(本文より)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ドラマチックガス
10
「「黒人」は存在しない」と「黒人女性-クローデット・コルヴィンの知られざる人生」の2編。「黒人女性」もわかりやすく素晴らしかったけれど、やはり「存在しない」の提示するテーマが非常に重要で、重い。一応構築主義に含まれるのかな? 「黒人差別はよくない」「私は黒人を差別しない」などというとき、すでに「黒人」というありもしないものに形を与えてしまっている。文化盗用に対しても、そもそも「◯◯たちの文化」なんてあるのかという点で批判的。2025/04/22
tetsubun1000mg
10
1950年代のアメリカは黒人と白人の居住地や買い物、食事、バスの乗り口や座る場所まで分けられていた。 しかも混んでくると座っている座席を白人に譲らなければならなかったという。 その時に席を譲らずに警察に逮捕された女子高校生の物語から始まる。 第二章は「黒人」は存在しないというタイトルで「アイデンティティの釘付けについて」というサブタイトル。 その章を読んで黒人や有色人種に対して深く根付いた差別意識に気づかされることになった。 2025/02/09
GO-FEET
5
《肌の色を指す「黒」が「黒い」という形容詞として用いられるかぎり、わたしはそれを、自分に当てはまるものとして何の躊躇もなく受け容れます。その場合(中略)自分が帯びているさまざまな特徴の一つとなります。それに対し、肌の色を指す「黒」を、イニシャルを大文字にして書く名詞「黒人」の意味に解して自分に適用し、「わたしは黒人(女性)です」と言うことはできません。そんなことをすれば、わたしという個人が、肌の色で定義される特定の人種グループにまるごと帰属させられ、その中で固められ、閉じられてしまいますから》(222頁)2025/02/24
tekka
2
「社会に危険が迫っていると思うと、人びとはいつも女性を『われわれの』女性と言い、まるで彼女たちが共同体に所属しているかのように、動産であるかのように語ります。こうした場合、『われわれの』男性とは絶対に言いません。」2025/04/20
Humbaba
2
同じような時期に同じような行動をする。しかし、一方は社会を大きく動かすようなムーブメントとなり、もう一方はそのまま社会に飲み込まれてしまった。現在の形を変えるというのは非常に困難なことであり、自分一人の力では到底実現できない。そのために周囲の人間に働きかけ、多くの人を動かす必要があるが、それに載ってくれるかはまた別の問題となってくる。2025/04/17