内容説明
銀座の有名カッフェー「ドンフワン」でトップを張る女給君江は、うぶで素人のような雰囲気ながら二股三股も平気な女。そんな彼女の身辺でストーカーのような出来事が起きるが、君江は相も変わらず天性のあざとさで男たちを悩殺し、翻弄していく。しかし、にわかにもつれ始めた男女関係は思わぬ展開を呼び……(「つゆのあとさき」)。荷風が女給の身の上話を聞き取った小品も収録。(解説・川端康成、谷崎潤一郎)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
86
昭和初期の銀座のカッフェーの女給・君江が主人公の物語。君江の若い娘の無貞操で官能的な様を、当時の東京の風物を背景にその愛人である清岡進の視点と、カッフェーで出会う客の松崎という老人や、女給の仲間たちの会話で描いている。途中清岡進の父・煕と妻・鶴子の邂逅の場面が挿入されている。最後は悲劇で終えるが、君江の行く末は描かれないままである。巻末の谷崎潤一郎の「つゆのあとさき」を読む、がとても面白い。谷崎潤一郎の日本の小説に対する考察で、模範とする西洋小説と異なる特徴を、文章に綴った絵巻物としていて印象的であった。2025/02/28
クプクプ
73
主人公の銀座の女給の君江のことを、永井荷風らしい女性に対しての観察眼で、興味深く丁寧に描いていました。東京に土地勘のある方は、もっと楽しめると思います。君江は、10代の後半から女給として働き、恋、多き女性です。私の感想より、谷崎潤一郎の解説の方が、鋭くて、わかりやすく、谷崎潤一郎の解説を見るだけでも、読む価値はあります。「つゆのあとさき」は、永井荷風の晩年の作品で、主人公の君江を通して、極端なほど客観的に描かれ、読者は勝手に想像を膨らませる作品だそうです。君江は「痴人の愛」のナオミを連想させられました。2025/02/01
冬見
12
こういう余韻の作り方は現代の小説ではあまり見ないような気がする。扱っている題材や登場人物のキャラクター、思惑とは対照的に文章の湿度はとても低い。本筋から逸れるが、巻末の批評で谷崎が「東京を舞台に書かれた作品は多いが東京を描いた作品は少ない」という話をしていたのが印象的だった。2025/06/14
JKD
12
上流階級の中年おじさんを手玉にとり、籠絡させていく君江のしたたかさが痛快。圧倒的な男尊女卑であっても有利に仕向けていくテクニックはまさにこの時代ならではと思いました。大正末期から昭和初期の時代背景でレトロな言い回しも逆に新鮮。いつの時代であっても男女の駆け引きは奥が深い。2025/01/13
ちゃんぷる
5
時代の空気を感じられてなかなか興味深い読書でした。なんだかあっけらかんとしているナァ、というのが最後数ページまでの印象で、ラストシーンが明確な一区切り。どの方向に転ぶのかはさておき、君江の人生は自覚の通りここまでが第一幕なんでしょう。悪女だの男を弄ぶだの帯とかレビューで見かけたけど、個人的にはそれはちょっと違う気がする。自分の得意を活かせる暇潰しが性的だっただけというか。ちやほやされたいわけじゃないような。当時女性がのびのび生きるのは大変だったろうし。川端康成と谷崎潤一郎の感想がそこそこ逆で面白かった。2025/04/06