内容説明
昭和初期、浅草六区の片隅に建つ芝居小屋。ここでは夜ごと、少女たちによる残酷劇が演じられていた。俳優たちは座長の方針で、ある特殊な条件のもと集められ、共同生活を送っている。ある日、容姿端麗で美しい声を持つ新人が現れた。本来ここには「完璧な少女」は存在してはいけないはずなのに、なぜ? 彼女の秘密が明らかになるとき、〈復讐〉が始まる――。分かち合えない痛みと傷を抱えて生きる孤独な魂を描いた全五編。退廃と奇想、呪縛と変容。唯一無二の世界を築き上げる創元SF短編賞出身の鬼才、空木春宵のデビュー作がついに文庫化!/【目次】感応グラン=ギニョル/地獄を縫い取る/メタモルフォシスの龍/徒花物語/Rampo Sicks/解説=橋本輝幸
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Shun
26
著者単独の作品を読むのは初。幻想怪奇の独創的な世界を描く空木春宵の5作品を収録。表題作は昭和の日本を舞台に、ある個性的な芝居小屋で夜な夜な演じられる怖ろしくも官能的な見世物を主題とした怪奇小説。その他に近未来でAIを利用し犯罪抑制という名目で作られた人格を相手に、人間の仄暗い欲望が浮き彫りになる「地獄を縫い取る」という作品では、地獄大夫をテーマとしたフィクションや谷崎の「刺青」といったモチーフを取り込み独特なSF作品が出来上がっている。残酷や頽廃といった感性が持ち味の作品集で怖いもの見たさに読みたくなる。2025/01/09
塩崎ツトム
20
原始、女性は「ヒト」であった。今、女性は「モノ」である。そんな書き出しで始まりそうな物語が並ぶ。変身物語の中、男――男神は動物に変身した生娘を拐す、あるいは人外の存在が動物に変身するが、女性の変身は呪いのようなものである。世界はなぜ女性を呪い続けるのか?今でも呪いをかけられた女性のうめきが世界に満ちている。それは祈りで救済できるのか?2025/03/07
gawa
6
表題作から幻想的な文章で作られた世界観にぐっと引き込まれた。美しくも残酷な少女たちの関係性に、時代を超えた力強い生を感じる。近い将来に起こりそうなバーチャルな官能をめぐる「地獄を縫い取る」がお気に入り。ただ、似たような趣向、主題、構成の作品が繰り返され、本書を通して読むとややお腹いっぱい感はある。先行作品を意識させる設定の作品も多く、解説が次なる読書の入り口にもなった。「Rampo Sicks」は、テッド・チャンの「顔の美醜について」や、アニメ「PSYCHO-PASS」を連想。2025/03/18
まめ
6
異形コレクションで出会った作家さん。こんなに耽美でグロテスクで幻想的なSF作品に出会えて本当に良かった。絶妙なバランスで唯一無二の世界観を作り上げている。他の作品も読まないと。2025/01/11
安土留之
4
異能の作家に久しぶりに出会った、という感じ。 昭和初期の浅草を舞台にした乱歩をさらに尖らせた感じの表題作、サイバーパンク小説に乱歩を合体させたような「地獄を縫いとる」、美醜探偵団によって美しい人が狩られるさかしまな世界を描いた「Rampo Sicks」など5篇を収録。異様な設定に読み始めは頭がクラクラするけど、読みすすめるうちに作中世界に引きずりこまれる。乱歩あるいは橘外男的な背景、サイバーパンク的(あるいはP・K・ディック的)認識論と描写、そして文体は久生十蘭のように硬質。不思議なフュージョンです。2025/03/08