内容説明
新聞雑誌の原稿に、翻訳、暗号文の解読……。
文章に関する依頼、何でも引き受けます。
どんな無理難題もペン一本で解決してみせる〝売文社″のもとには、
今日も不思議な依頼が持ち込まれて――。
ある日、暴漢に襲われた“ぼく”を救ってくれた風変りな人々。彼らは「文章に関する依頼であれば、何でも引き受けます」という変わった看板を掲げる会社――その名も「売文社」の人たちだった。さらに社長の堺利彦さんを始め、この会社の人間は皆が皆、世間が極悪人と呼ぶ社会主義者だという。そんな怪しい集団を信じていいのか? 悩む“ぼく”に対して、堺さんはある方法で暴漢を退治してやると持ち掛けるが……。
暗号解読ミッション、人攫いグループの調査……。社に持ち込まれる数々の事件を、「売文社一味」はペンの力で解決する!
世の不条理に知恵とユーモアで立ち向かえ。驚きと感動が詰まった珠玉の推理録!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
194
柳 広司は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。 本書で、社会主義者 堺 利彦の存在を初めて知りました。 著者は、軽いタッチで描いていて読みやすいですが、実際はかなり弾圧されて厳しい時代だったんでしょうね。 https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344043794/2024/12/28
のぶ
101
明治の激動の時代を舞台とした話。爪弾きにされた社会主義者たちの日々起こる事件を、誰にでも読みやすく書かれている。本作で描かれている社会主義とは、現在当たり前に思っている、男女平等、女性も働く権利がある、金持ちだけが得をしない、長時間労働だめみたいなもののようだ。自分が知っている実在の人物がモデルになっていて、リアル感があり読んでいて興味深かった。この時代の日本が思想を自由に持てなかったのかと思うと、当時の民主主義はまだ創成期だったのだろう。時代を思って楽しく読んだ。2024/12/18
まこみや
69
堺利彦と「売文社」の周辺をモデルにしているけれど、小説自体はさらりと書かれていて格別深刻な風はない。少し前になるけれど、著者は岩波の『図書』に隔月で時事エッセイを寄稿していた。そこで一貫した態度は、端的に言えば、「安倍政権の欺瞞と権力による専制」への怒りと告発だったように思う。柳広司氏が今なぜこのような小説を書こうとしたか、言い換えればなぜ「堺利彦と『売文社』」に関心を持つに至ったか、その動機に自ずと思いを馳せざるをえないのである。2025/03/12
ままこ
66
時は明治。ごろつきに暴行されてた“ぼく”を助けてくれたのは風変わりな人たちだった。“文章に関することなら何でも引き受けます。”の『売文社』に持ち込まれる奇妙な依頼。社会主義者が弾圧された時代はこの“社会”という言葉が入っているだけで、生物学者が書いた『昆虫社会』という自然科学の本でさえ発禁処分になってたことには驚き。実在した人物や組織をモチーフに、軽快さの中に当時の理不尽な世相を練り込んだミステリー。2025/01/18
オーウェン
55
文章に関する依頼を受ける売文社を立ち上げた堺利彦。 そこで雪に倒れていた青年を会社で働かせることに。 やることは文章の解明だったり、社会主義者と呼ばれる者たちの抵抗である。 弱者の立場から、強き者を挫く手助けをするのが痛快。 文章のメッセージを推測するなど、推理ものとして楽しめる出来。 最後の章に出てくる弁護士も実に個性的であり、このチームの面々の活躍をもっと見たくなる。2025/01/05