講談社現代新書<br> 現代日本人の法意識

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講談社現代新書
現代日本人の法意識

  • 著者名:瀬木比呂志【著】
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  • 講談社(2024/11発売)
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  • ISBN:9784065378250

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内容説明

日本を震撼させた衝撃の名著『絶望の裁判所』から10年
元エリート判事にして法学の権威が、日本人の法意識にひそむ「闇」を暴く!


本書は、書名から明らかなとおり、日本人に根付いている「日本人特有の法意識」をテーマとする。私は、裁判官として三十三年間に約一万件の民事訴訟事件を手がけるとともに、研究・執筆をも行い、さらに、純粋な学者に転身してからの約十三年間で、以上の経験、研究等に基づいた考察を深めてきた。この書物では、そうした経験をもつ者としての、理論と実務を踏まえた視点から、過去に行われてきた研究をも一つの参考にしつつ、「現代日本人の法意識」について、独自の、かつ多面的・重層的な分析を行ってみたいと考える。

法学者・元裁判官である私が、法律のプロフェッショナルですら満足に答えられないような曖昧模糊とした「法意識」に焦点を合わせた一般向けの書物を執筆したのは、日本固有の法意識、日本人の法意識こそ、私たち日本人を悩ませる種々の法的な問題を引き起こす元凶の一つにほかならないと考えるからだ。
そればかりではない。意識されないまま日本人の心理にべったりと張り付いた日本的法意識は、日本の政治・経済等各種のシステムを長期にわたってむしばんでいる停滞と膠着にも、深く関与している可能性がある。その意味では、本書は、「法意識」という側面から、日本社会の問題、ことに「その前近代的な部分やムラ社会的な部分がはらむ問題」を照らし出す試みでもある。

この書物で、私は、日本人の法意識について、それを論じることの意味とその歴史から始まり、共同親権や同性婚等の問題を含めての婚姻や離婚に関する法意識、死刑や冤罪の問題を含めての犯罪や刑罰に関する法意識、権利や契約に関する法意識、司法・裁判・裁判官に関する法意識、制度と政治に関する法意識、以上の基盤にある精神的風土といった広範で包括的な観点から、分析や考察を行う。
それは、私たち日本人の無意識下にある「法意識」に光を当てることによって、普段は意識することのない、日本と日本人に関する種々の根深い問題の存在、またその解決の端緒が見えてくると考えるからである。また、そのような探究から導き出される解答は、停滞と混迷が長く続いているにもかかわらずその打開策が見出せないでもがき苦しんでいる現代日本社会についての、一つの処方箋ともなりうると考えるからである。

目次

本書の内容
まえがき「法意識」とは何か?
第1章 「現代日本人の法意識」について考えることの意味
日本における近代的法意識の未熟さ/法の歴史における切断/法と人々の法意識の間の溝、ずれ/法は社会と制度の基盤
第2章 日本法の歴史とその特質
1古代から現在まで古代から近世まで 西欧法の概要と日本法との相違/原日本法と「ノリ」/律令制とこれに先立つ十七条憲法/鎌倉時代から江戸時代まで/江戸時代庶民の法意識は高かった?
2江戸時代の民事訴訟に関する実証的研究江戸時代庶民の法意識は高かった/訴訟の実際と現代日本にも通じる諸要素/右の研究から学ぶべき事柄
3 明治時代以降
明治時代/第二次世界大戦後
第3章 婚姻、離婚、親権、不貞、事実婚、同性婚をめぐる法意識
1 婚姻、離婚、共同・単独親権をめぐる法意識
離婚できる要件に関するルールと法意識/離婚給付に関する法意識/離婚についての国家のチェックと法意識/共同親権論争と法意識/家裁の問題/政治家の横暴/改正法の含む問題
2 不貞をめぐる法意識
不貞をめぐる法と法意識/不貞の生物学的根拠と法のあり方
3 事実婚、同性婚をめぐる法意識
事実婚に関する法意識/同性婚と人間の性的指向/同性婚に関する法意識、同性婚と子の問題/家族法領域の諸問題と日本人の法意識
第4章 犯罪と刑罰・死刑をめぐる法意識ー応報的司法から修復的司法へ
1 犯罪と刑罰の意味ー実は、考えてみるべきことが多い
犯罪と刑罰/犯罪概念の相対性、犯罪と道徳/犯罪の社会学的なとらえ方
2 自由意思と責任
刑法の基礎にある自由意思の問題
3 応報的司法と修復的司法
犯罪者と私たちを隔てる壁は、本当は薄い/応報的司法と修復的司法/日本における犯罪者処遇のあり方
4 現代の世界において死刑は正当化されうるのか?
死刑に関する法意識/法に必要なマクロの視点、そして現代日本人が失いつつある慈悲の心/犯罪と刑罰に関する日本人の法意識
第5章 冤罪をめぐる法意識、刑事裁判官・検察官のあり方
冤罪に関する日本特有の問題/冤罪防止のためのシステムや取り組みの欠如/検察官の「法意識」/特捜検察の問題/刑事系裁判官の「法意識」/冤罪に関する人々の法
意識
第6章 権利、所有権、契約、民事訴訟をめぐる法意識
法と権利 権利は「公共的正義」の割当分/所有権に関する法意識/契約に関する法意識/日本人のあいまいな法的意識の「深層」/民事訴訟日本人は「裁判嫌い」
なのか?

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。

パトラッシュ

129
日本人は法を尊重する国民性か否か、様々な事件が起こるたびに考えさせられる。死刑や同性婚などで欧米の法意識との大きな落差は以前から指摘されているが、時として自分の主義主張に合わない法は無視していいと信じているのではと思える事例もある。日本の憲法や法律は明治維新と敗戦という国体の強制的大変革に伴い、当時の政府や占領軍から下賜された面がある。歴史を通じて培ってきた常識や感覚とズレが生じ、衝突が起きるとの指摘は頷ける。しかし自分が信じる法理論は常に正しく、反対側の言い分を悪とする著者の考え方こそ一方的ではないか。2025/01/16

skunk_c

70
実務と研究の両方を経験している著者らしい考察が並ぶ。日本に住む者の歴史的な法意識と明治維新、1945年の敗戦といった「ガラガラポン」のたびに新たな法体系や価値観が導入されるが、いずれも日本自体がそれをちゃんと咀嚼できていないため、極めて据わりの悪いものになっているんだなという印象を受けた。「人質司法」「死刑制度」などについての著者の見解は、真摯に検討されるべきもので、特に前者は例えばアメリカ兵による犯罪を日本で裁く際相手方にある種の「弱み」を見せていることになる。最後に出てくる政治の劣化についても同感。2024/12/23

kawa

39
日本の司法制度の後進性を上書き。法の核にある理念の欠落を、権力者側に立った曖昧な「和の精神」や「仏教的理念」で埋めているという日本人の法意識に対する問題の指摘にもなるほど。他にも、冤罪事件が発生しやすい日本の体制。裁判官の判断は総合的な直観力でもたらされる。司法記者との癒着が酷い、等々が参考。法律には社会形成力がある。今の社会制度が行き詰まっている原因に、著者の指摘の通り法制度が理念通り回せられていないところにあるは確かにだな。行政訴訟分野も論評して欲しかったが説得力高い良書。著者作品3冊目の読了。2025/02/10

てつ

28
この著者の本を何冊か読んだのだけれど、残念なことが多く今回もそれに漏れず、といったところ。元裁判官で司法のことはよく知ってるのでしょうが、概ね上から目線。好きにはなれなかった。2024/11/29

ばんだねいっぺい

26
自分たちで獲得した法律というより、上から与えられた法律という意識があるようだ。また、法律は、論理的な思考とセットとなるべきところ、公教育にそのようなものがないのではないかと思ったり。不貞のくだりは、たいへん、面白く読んだが、筆者と相容れない意見を感じて、自分の保守思想が明らかになった読書だった。2025/05/10

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