内容説明
1985年、アイルランドの小さな町。寒さが厳しくなり石炭の販売に忙しいビル・ファーロングは、町が見て見ぬふりをしていた女子修道院の〝秘密″を目撃し――優しく静謐な文体で多くの読者に愛される現代アイルランド文学の旗手が贈る、史実に基づいた傑作中篇
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
108
寒さが町を覆う季節のアイルランドが舞台。穏やかながらどこか芯の通った強さを感じさせる話だった。その男ファーロングは、ささやかなものに包まれて生きてきた。娘の些細な振る舞いに幸せを感じ、同時にふとしたことでそれを失う可能性に不安を抱くことも。人生は少しの掛け違いで景色が変わることを彼は身をもって知っていた。だから彼は小さくも決断した。正しいか分からない。家族に相談なし?。苦労知らず?。でも彼は自分を鑑みて目を背けられなかった。僅かなことが積み重なり、世の中には見えないとされたものが見えてくることが多数ある。2024/12/06
アキ
93
ニューヨーク・タイムズ紙の「21世紀の100冊」に選ばれ、英国のオーウェル政治小説賞を受賞作。アイルランドで映画化もされています。舞台はアイルランドの小さな町ニューロス、時は1985年。北アイルランドを巡る英愛協定が交わされる頃。12月の底冷えする悪天候の街にクリスマスの季節が訪れる。ビル・ファーロングは石炭販売を営み、5人の娘に恵まれ、聖マーガレット学院へ通わせている。母親は彼を女手ひとつで育ててきた。ある日石炭小屋に裸足の娘が取り残されているのを目にする。女子修道院へ引き渡した後悔からある行動をとる。2025/02/08
seacalf
80
『青い野を歩く』が素晴らしかったクレア・キーガンの中編作品。其処彼処にあの国の空気が感じられるのでアイルランド好きにはたまらない。叩き上げで石炭や木材を扱う店の事業主になったファーロング。彼の胸内の葛藤を描くのが大変見事。人を救うはずの教会の表と裏の顔、自分の出自を顧みて、皆が見ない振りをする腐敗を見逃せないファーロングが起こした行動とは。本筋の話だけでなく、アイリッシュクリスマスの雰囲気、中年男の内面の描き方など中編ながら心に静かに沁み渡る要素がたっぷり。クレア・キーガン、これからも目が離せない。2025/04/15
帽子を編みます
65
傑作です、寝る前に読んで興奮して眠れなくなりました。抑制された静かな文体、アイルランド(共和国)で石炭と燃料を扱う商人ビル・ファーロングが主人公、彼の日常生活が淡々と綴られていきます。不景気で行き詰まる空気が感じられるアイルランドの町、ビルの生い立ちシングルマザーに育てられなんとか自分の店を広げてきた自負、家族にも恵まれ、クリスマスを前に商売に勤しみますが…。修道院でふと気づく仄暗い闇。悩みつつも行動をおこします。ああ、この後どうなったのだろう。短い話ですが、良心についてを問いかける一冊でした。2025/06/10
pohcho
63
実在した教会運営の母子収容施設とマグダレン洗濯所をモデルにした物語。1985年アイルランド。石炭と木材を商うファーロングはひょんなことから施設の実態を知ってしまう。父を知らずに育ち大変な苦労をした彼。自分の母親がもしこの施設に収容されていたら・・という思うといてもたってもいられないが、権力を持つ教会に逆らうと家族を巻き添えにしてしまうことになる。思い悩み苦しんで彼が出した結論は・・。善く生きるとはどういうことなのか、深く考えさせられる作品。今後のことを思うと胸が痛くなるが、自分も善く生きたいなと思う。2024/12/20
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