内容説明
一九七八年、久保田悦子はアルバイト先のスナックで、杉千佳代と出会った。舞台女優を目指す千佳代は所属する劇団で、『アナベル・リイ』のアナベル役を代理で演じるが、その演技はあまりに酷く、惨憺たるものだった。やがて、友人となった悦子に、千佳代は強く心を寄せてくる。フリーライターである飯沼と入籍し、役者の夢を諦めた千佳代は、とても幸せそうだった。だが、ある日店で顔面蒼白となり倒れ、ひと月も経たぬうちに他界してしまった。やがて、悦子が飯沼への恋心を解き放つと、千佳代の亡霊が現れるようになる。恋が進展し、幸せな日々が戻って来る予感が増すにつれて、千佳代の亡霊は色濃く、恐ろしく、悦子らの前に立ち現れるようになり――。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yukaring
64
耽美で流麗、そしてまとわりつくような空気感が不穏な幻想怪奇小説。アルバイト先のスナックで悦子は千佳代に出会う。アングラ劇団の女優である千佳代はライターの飯沼と入籍。しかし幸せの絶頂を謎の病気に襲われそのまま帰らぬ人となる。その後悦子は秘めていた飯沼への想いを抑えきれずに彼と恋仲に。その頃から悦子は千佳代の姿を度々見ることになる。飯沼に恋する女性の前に現れて彼女らへ不幸を振り撒く千佳代の霊。しかし彼女の霊は悦子の前には姿を現すだけで危害は加えない。そんな彼女の姿に怯えながら生きる悦子の壮絶な半生を描く物語。2025/07/22
銀華
8
天真爛漫を体現した女優に懐かれるように友となった主人公は支配欲を擽られながらも仲を深める、そんな彼女がモテる夫に愛されたまま亡くなり、それから白い彼女の影が見え始めーー姿が見え隠れする彼女が何をしたいのか分からず、存在を感じさせるだけなのに、夫の縁のある女が衰弱する様を近くで見ることになる。彼女の心の真相も明かされず恐怖も含め困惑戸惑いを感じる日常を交えた主人公の回顧録で進む本書で彼女は『アナベル・リイ』になれたのが嬉しかったのかなと思う。あの時失敗した憧れの詩、それも友の手によって書かれたのだから。2024/11/14
多喜夢
6
例えば季節の移り変わりや登場人物の心境、そして幽霊の出る状況なども、緻密に、そしてしっとりと描かれる文章に引きづりこまれる。やはり昭和の時代の作家だなぁ。猛暑の夏にはぴったりのゴーストストーリー。2025/08/18
桜絵
4
久保田悦子は26歳の誕生日に、バイト先のバーとみながで、若き女優の卵である杉千佳代と出会う。彼女はある演劇がきっかけで記者の飯沼と出会い、結婚する。一方千佳代は悦子にも懐き、友達関係にある。だが、ある晩千佳代はバーで突然倒れ、そのまま急逝してしまう。戸惑う悦子やとみながのママ・多恵子の前に、彼女の幽霊が時折現れる。 悦子は幽霊に怯えながらも、バイトを続け、やがて飯沼とも近づいていく。ところが不可解な死がぽつりぽつりと起こり……。 小池さんの文書は相変わらず美しい。美しいままひたひたと怖い。2025/07/09
peace land
4
空気ですでに怖さを書いているのが巧みだと思った2025/02/24