内容説明
横浜で探偵業を営む遠刈田蘭平のもとに、一風変わった依頼が舞い込んだ。九州を中心にデパートで財をなした有名一族の三代目・豊大から、ある宝石を探してほしいという。宝石の名は「一万年愛す」。ボナパルト王女も身に着けた25カラット以上のルビーで、時価35億円ともいわれる。蘭平は長崎の九十九島の一つでおこなわれる、創業者・梅田壮吾の米寿の祝いに訪れることになった。豊大の両親などの梅田家一族と、元警部の坂巻といった面々と梅田翁を祝うため、豪邸で一夜を過ごすことになった蘭平。だがその夜、梅田翁は失踪してしまう……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
旅するランナー
204
罪名、面白いっす。吉田修一初の孤島を舞台した推理小説かと思いきや、歴史の重みを感じる人間ドラマと、空想科学小説的雰囲気を絡ませてきます。こんな愛の形もあるんでしょう。2024/12/15
いつでも母さん
168
最後の晩餐を彷彿とさせる装画に奇妙なタイトルの吉田さんの新作。探偵もの、富豪の一族、絶海の孤島、宝石探し・・なんだか軽い(笑)だが、一族の長で創業者・梅田壮吾が米寿の祝いの翌日に失踪してしまうところから、梅田翁の過去が、終戦の頃の彼らに思いを馳せる事が、苦しくて泣かされるのだ。ケロ、みっちゃん、幸次・・彼らの境遇は彼らの所為じゃないのに。あぁ今さらだが、あの頃の沢山の子供達が幸せな時間を過ごせてますように。ご本人登場に持ってくるあたりニンマリして読了した次第。2024/12/13
のぶ
154
吉田さんの新刊は驚いたことに本格ミステリーだった。「一万年愛す」という謎めいた宝石とそれを探す任務を負った探偵。いきなり島から姿を消す老人。迷宮入りした四十年前の主婦失踪事件と謎めいた展開に読む手が止まらなかった。どこかユーモラスな内容と読みやすい文体が深刻さを排除するが、真相が明らかになるにつれ、この小説のテーマが見えてくる。最後までとても凝った構成で、何重にも楽しめる作品だった。人の隠された暗い過去の真相を知った時、人はなぜこれほどに感傷的になるのだろう。感動しました。2024/11/08
hiace9000
149
九十九島の孤島を舞台に宝探しの依頼を受けた探偵・遠苅田と、九州のデパート王・福田翁の米寿の祝いに集められた一族と関係者。冒頭から醸す、どこか活弁か講談師のめいた快活さの中にある”妙に昭和"な滑稽さと、まるで横溝正史「金田一シリーズ」を想起させるざらついた違和感。翌朝は一転、疾走した福田翁を容疑者と協働しながら捜索することに。昭和の名作映画『砂の器』『人間の証明』『飢餓海峡』を絡め、読者を謎解きミステリーへと誘ったのちの圧巻の真実に胸衝かれる。遠苅田の先輩、作家吉田修一氏…なかなかやるな、なのである。2024/12/09
となりのトウシロウ
138
「一万年愛す」という宝石探しのため長崎県の北西にある孤島にやってきた探偵。米寿の祝いの夜に屋敷の主人・梅田翁が突然姿をくらます。あいにく台風が接近中で海は荒れていた。そんな本格ミステリー風のシチュエーション。だけど、登場人物の言動はユーモラスで横道世之介風という一夫変わった吉田修一作品。家族や屋敷で働く人や元警部達が梅田翁を探す。45年前の失踪事件との関係は?やがて家族にも秘められた梅田翁の秘密が明らかになる。かなり無理がある設定もあって少し残念ではあるものの面白かったです。2025/01/19