内容説明
事故で2年間植物状態になっている恋人を見舞い続ける“私”の前に、分身を名乗る幽霊が現れる。自分そっくりな幽霊が一向に姿を消さないため、“私”は仕方なく一緒に暮らし始めるが……(「幽霊の心で」)。人間をクラゲにしてしまう、変種のクラゲが大量発生する。社会に動揺が走るなか、音楽活動をやめた“私”は、自らクラゲになりたがる人をサポートする仕事につき……(「光っていません」)。所属している劇団が行き詰まり、仕方なく役割代行サービスをしている駆け出し俳優の“あたし”。誰かに代わって別れを告げたりニセの恋人になったりしているうち、ある男から、「冬眠の準備を手伝ってほしい」という依頼があり……(「冬眠する男」)。閉塞感に満ちた日常に解放をもたらす、韓国発、8つの奇妙な物語!/【目次】幽霊の心で/光っていません/夏は水の光みたいに/見知らぬ夜に、私たちは/家に帰って寝なくちゃ/冬眠する男/アラスカではないけれど/カーテンコール、延長戦、ファイナルステージ/作家の言葉/解説=倉本さおり
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
31
「カーテンコール、延長戦、ファイナルステージ」 頭の上に中華料理屋の看板が落ちてきて急死した私。訳の分からない私に、急死した場合はこの世に100時間いられると説明するのは鳩。すぐにあの世に行きたくても、24時間は猶予があるという。かといって生き返ることができるウルトラCはない。人生の中途半端な延長戦を生きる中で、私は他に仲間を見つける。この設定自体はSFだが、最近では通信の発達によって伝書鳩としての役割がなくなったが、このような形で再就職をしたと聞いて、ろくな職も見つからない私は羨ましがる。2024/12/21
かもめ通信
15
1995年、ソウル生まれの著者の短篇集。 収録されている8篇の物語はどれも、どこか奇妙でそのくせ違和感なく読者を取り込み、ユーモラスでありながらとても切なくて、あれもこれもありえないのに、なぜだかとてもリアルに迫ってくるものがある。 人生はままならないことばかりだけれど、それでもわたしは生きていて、つらいことは山ほどあるけれど、いいことだってたまにはある。 なにしろ、こんなお気に入りの1冊に出会えたのだから。2025/01/20
おだまん
11
閉塞感いっぱいの韓国社会の土台にありながらたゆたうように浮かんでくる不思議な優しい物語たち。この世界にしばらく浸っていたい気持ち。2024/12/25
二人娘の父
8
めちゃくちゃ好きな作風でした。新人作家さんのようですが、今後が楽しみ。さらに面白かったのが、ポッドキャスト番組で聴いた担当編集者の佐々木さんのトーク。翻訳書籍が発売されるまでの、いろいろなエピソードが楽しい。詳しくはこちらから→https://open.spotify.com/episode/2hASgGl0QavXVnp06Ozf1U?si=b2pxjSM4QzSMbsYW4nuxGQ2024/12/21
今日
5
傷ついたり疲れたりしたひとびとの日常に現実離れした非日常が混ざりながらも、やはり自分の人生をそれぞれ進めることになる、そのような話を集めた短編集。 「幽霊の心で」自分の感情や考えを理解し、自分を救うことができるのは自分だけであるのだろう。 「光っていません」続けることは痛みでもあるが眩しい。 「夏は水の光みたいに」不穏な冒頭からの奇妙で穏やかで切ない同居。最後のシーンが好き。 「カーテンコール、延長戦、ファイナルステージ」意思をもつひとに与えられる最後の祝福のようなステージが印象的。最も爽やかな読後感。2024/12/31