ちくま新書<br> 社会保障のどこが問題か ――「勤労の義務」という呪縛

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ちくま新書
社会保障のどこが問題か ――「勤労の義務」という呪縛

  • 著者名:山下慎一【著者】
  • 価格 ¥935(本体¥850)
  • 筑摩書房(2024/10発売)
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  • ISBN:9784480076496

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内容説明

病気やケガをしたとき、出産や育児、そして介護が必要になったときの生活を保障する社会保険。働けなくなったときや老後の生活を支える年金制度。毎月の給料から天引きされているものの、いざというとき自分がどの給付を受けられるのかわかりにくく、申請するのもどこか後ろめたい。日本の社会保障はなぜこんなにも使いづらいのか。複雑に分立した制度の歴史から、この国の根底に渦巻く「働かざる者食うべからず」の精神を問い、誰もが等しく保障される社会のしくみを考える。

目次

はじめに/複雑で使いにくい社会保障/問題はどこにあるか/法律学というアプローチ/社会保障と法解釈/「勤労の義務」を問いなおす/人々の意識と法的権利/理想の社会保障に向けた共同作業/第一章 なぜ働き方によって社会保障が違うのか──労働者と自営業者/1 社会保障の全体像/老後四八八〇万円問題? /「労働」とは何か/「労働者」と「自営業者」/日本の社会保障の体系/2 公的年金における違い/公的年金の構造と老齢期の差/同業者同士での対応の限界/3 医療における違い/公的医療保険の構造/自営業者への対応/4 失業時・雇用継続対策における違い/雇用保険の適用関係による違い/求職者支援制度/5 労働災害における違い/労災保険という仕組み/労災保険の適用の有無による違い/労災保険への特別加入/第二章 なぜ働き方で分立しているのか──四つの社会保険/1 制度がつくられた時代/戦後日本の就業構造/農林業が中心だった時代/2 公的年金はなぜ分かれたか──国民年金と厚生年金/公的年金の歴史/労働者年金の設立と厚生年金への改組/国民年金の設立をめぐって/自営業者の所得を把握するのは難しい? /なぜ公的年金は分かれたか/3 公的医療保険はなぜ分かれたか──国民健康保険と健康保険/現在の公的医療保険/国民健康保険の制定・改正をめぐって/なぜ自営業には傷病手当金等がないか/4 雇用保険はなぜ自営業者には適用されないか/雇用保険とは何か/「自発的な」失業? /5 労災保険はなぜ自営業者には適用されないか/労災保険とは何か/特別加入とその例外性/6 社会保険はなぜ分かれたか/制度分立の理由/労働者中心の社会保障/第三章 なぜ使いにくいのか──社会保障と情報提供義務/1 社会保障と情報提供義務/申請しないと給付は受けられない? /情報提供義務をめぐる先駆的裁判例/その後の裁判例/2 行政以外の情報提供義務/民間主体と情報提供義務/行政の肩代わり? /3 他分野との比較/企業年金分野との違い/厚生年金基金と情報提供義務/確定給付年金と情報提供義務/社会保障法領域との比較/4 情報提供義務のどこが問題か/情報提供義務の意義/情報提供義務の限界/第四章 生活保護のうしろめたさ──社会保障と「勤労の義務」/1 生活保護を受給できるのは誰か/働かなくても生活保護を受けられる? /「稼働能力」とは何か/2 行政による「指導・指示」/受給中は「指導・指示」を受ける/働きながら生活保護を求めたXさんの事案/職業選択の自由? /裁判所の判断内容/「勤労の義務」と生存権/3 生活保護と不正受給/最低生活費はどう決まるか/不正受給は増えているのか/不正受給の事案/不正受給の背景にあるさまざまな事情/「働くこと」をめぐる規範意識/4 「勤労の義務」という精神/法の根本にある「勤労の義務」/「勤労の義務」という倫理観/中間のまとめ 「勤労の義務」という呪縛/「勤労の義務」と生活保護/「勤労の義務」と社会保障/「勤労」の中身? /時代状況の変化と「勤労」/「働かざる者食うべからず」という倫理観/倫理観が権利を阻害する/問題の根本はどこにあるか/第五章 「勤労の義務」の意味──日本国憲法制定時の議論を読む/1 なぜ「勤労の義務」を検討するか/「勤労の義務」規定と法的な効力/法解釈に唯一の正解はない/2 日本国憲法制定時の帝国議会の議論/帝国議会の推移と衆議院本会議での議論/衆議院帝国憲法改正委員会での議論/3 衆議院帝国憲法改正小委員会による勤労義務の挿入/小委員会の構成と生存権への言及/「勤労」か「労働」か/「勤労」とは何か/「法的義務」か「道徳的義務」か/道徳的義務としての見解の一致/文言の確定/4 勤労の義務の法的意義/イデオロギーを超えた合意/「勤労」と「義務」/第六章 働くことと社会保障を切り離す/1 変化する働き方/働き方と社会保障の関係を問いなおす/非正規労働者などの状況/変化する自営業者の就業実態/労働者という働き方の変容/2 社会保障をめぐる論争史/公的年金──民主党の年金一元化案/医療保険──コロナ禍による部分的な実現/雇用保険とその周辺をめぐる動向/労災保険における特別加入/3 働くことと社会保障を切り離す/依然として残る労働者中心主義/働き方の順位付けと法解釈問題/「働くこと」と社会保障を切り離す/技術的な問題/終章 新しい社会保障のために/1 現行制度とどうつなげるか/問題点のおさらい/現行制度をベースとした年金と医療の構想/現行制度をベースとした雇用保険の構想/現行制度をベースとした労災保険の構想/技術的な問題をどう乗り越えるか/複雑であっても利用しやすい社会保障/生存権の実現──「働かざる者食うべからず」を問いなおす/2 まったく新しい社会保障へ/社会保険を編みなおす/最低生活保障を編みなおす/ブックガイド/あとがき/参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

アキ

107
1950年代に社会保障が出来て70年以上経過し、働き方も変化しつつある現代において、自営業者と労働者の間で制度が異なることへの考察と提言を著した新書。自営業者には失業保険もないし、傷病手当金もない。年金も国民保険のみのため、平均月額は5.5万円程度である。憲法25条生存権で健康で文化的に生きていくための生活保障が謳われているが、「働き方」で社会保障が異なるのは是正すべきである。新しい社会保障のために、現行制度をベースとしマイナンバーの活用で自動的に給付するか、まったく新しいものに変える案を提唱している。2025/01/12

よっち

32
いざという時の生活を保障する社会保険と働けなくなった時や老後の生活を支える年金制度。複雑な制度の歴史から誰もが等しく保障される社会のしくみを考える1冊。なぜ働き方で社会保障が違うのか。労働者と自営業者で違う公的年金、医療、失業時・雇用継続対策、労働災害の仕組み。一方で制度が作られた時代背景、国民年金と厚生年金、国民健康保険と健康保険が分かれた事情、雇用保険や労災保険が自営業者に適用されない状況、勤労を前提とした生活保護の後ろめたさを解説していて、使いにくさと新しい社会保障を考えるいいきっかけになりました。2024/10/30

Francis

13
橋本陽子「労働法はフリーランスを守れるか」に続けて読んだ。日本の社会保障はどうして使いにくいのか著者の経験を踏まえて考察する。社会保障の基本である年金、健康保険、雇用保険などが労働者向けの制度として構築された事、そして日本国憲法に定められた「勤労の義務」が制定当初の意図を越えて世間では「働かざるもの食うべからず」と言う強い規範意識として根付いてしまった事をその理由として挙げる。著者は社会保険の枠外と考えられていた自営業者も労働者に近くなっていることを踏まえ、働くことと社会保障を切り離す必要性を説く。2024/11/18

Bevel

7
社会保障がいわゆる「アクティベーション」化するのは、90年代くらいみたいなイメージがあって、日本の場合はそもそものところからそうなのかと思って手にとった。人手が足りなかっただろう戦後の「働かざる者食うべからず」の雰囲気は想像できるけど、それがずっと変わってないのかと。現実的な最小限の変更で社会保障を柔軟に組み替える場合、自営業者の実態を把握することの難しさを解決するのは重要な気がして「現在の情報技術を駆使し、工夫をすれば乗り越えることはできそうである」ってもう少し突っ込んでくれてもよいのではと思った。2024/11/25

awe

6
社会保障法学を専門とする法学者による一冊。現行の社会保障制度はとにかく複雑で、働き方によって制度が分立している。そしてそれは最近様々に政治的動きがあるように、多様な働き方がある現代には即していないという問題を生み出している。さらに憲法における「勤労の義務」が社会保障に与えている影響についても筆者は問題視している。生活保護においては、まず勤労しようとしていることが重視される(それにより自動車保有等の可否も左右される)し、雇用保険ではそれが給付制限期間の設定に結び付く。これらの問題意識から、6章と終章では2024/11/09

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