内容説明
芥川賞受賞作
29歳、社会人8年目、手取り年収163万円。
こんな生き方、働き方もある。新しい“脱力系”勤労小説
29歳、工場勤務のナガセは、食い扶持のために、「時間を金で売る」虚しさをやり過ごす日々。ある日、自分の年収と世界一周旅行の費用が同じ一六三万円で、一年分の勤務時間を「世界一周という行為にも換金できる」と気付くが――。ユーモラスで抑制された文章が胸に迫り、働くことを肯定したくなる芥川賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
zero1
405
自分の労働はいくら?現代を鋭く切り取った芥川賞受賞作を再読。29歳の女性ナガセはパワハラで新卒入社の会社を退職。工場勤務、カフェの手伝いなどで生活。職場で見た世界一周クルーズの163万円を貯めると決め、その後友人が娘と家に転がり込む。表面的な技巧に走ることなく日常を描く作品は退屈なようで、虚しさを含めて自分を肯定。30歳にしてこの作品が書けるのは奇跡と言っていい。文学が「人とは何か」を描くものなら、これほど文学している作品はない。日本各地で「私はナガセだった!」と共感している人がいるはず。2019/07/01
青乃108号
372
津村記久子さんの芥川賞受賞作「ポトスライムの舟」は面白く読んだ。しかし、働く事を肯定したくなるって……?俺はむしろ働く事の意味なんて、そんなにシャカリキに頑張る程の物ではないよ、ほどほどでいいんだよ、それより本当に自分の好きな事が出来る時間を拵えた方がずっといいんだよ、という風に読んだけど。で、受賞作はさておき、抱き合わせで並録された「12月の窓辺」の方を俺はより面白く読んだ。これは「ポトスライム~」の前日譚とも言える。内勤のOLが受ける過酷なパワハラがこれでもかと描かれており、耐え抜いた主人公の飛躍が。2026/06/22
風眠
310
第140回芥川賞受賞作。「低収入・非正規雇用」でも、逞しく生きる姿を描いていることが本当のテーマではないように思う。一年間必死に働いた収入が、世界一周旅行のツアー代金とほぼ同額・・・って、それってどうなの?と、自分の労働価値を見出そうと、考えたり立ち止まったり、納得できる答えを探そうと静かにもがいている姿こそがテーマなのではないかと思う。革命は起こらない、淡々と日常が過ぎてゆくだけ。その先に希望があるように感じたのは、ただの私の願望なのかもしれない。2012/06/05
エドワード
264
「お仕事小説」というものがある。仕事を通じて自己実現できたらそれは無上の喜びだろう。「舟を編む」の感想で書いた通り、のめりこめる仕事に出会えた人は幸せ者だ。だが、それはほんの一握りの人。世の中の99.9%の人は、時間を売って金に換えている。ナガセやツガワのように。化粧品の工場。印刷会社の内勤。仕事なんてつまんねえよ。世界一周するお金が年収と同じって、そりゃ愕然とするわな。どんな人間にだってプライドはあるのよ。非正規雇用、パワハラ、モラハラ。「ツガワはいいな、やめられて。」このカイシャ、今の日本の縮図。2015/10/12
hit4papa
251
発表された当時は、派遣切りやワーキングプアといった問題がクローズアップされていたようで、世相を反映した作品なのでしょう。しかし、本作品は、そこに見られる悲劇に拘泥するのではなく、むしろ、日々を前向きに生きていこうという活力、そして清々しさを感じさせてくれます。
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