内容説明
土地開発と不動産事業で成り上がった昭和の旧華族、烏丸家。その嫡男として生まれた治道は、多数のビルを建て、東京の景観を変えていく家業に興味が持てず、祖父の誠一郎が所有する宝刀、一族の守り神でもある粟田口久国の「無銘」の美しさに幼いころから魅せられていた。家に伝わる宝を守り、文化に関わる仕事をしたいと志す治道だったが、祖父の死後、事業を推し進める父・道隆により、「無銘」が渋谷を根城にする愚連隊の手に渡ってしまう。治道は刀を取り戻すため、ある無謀な計画を実行に移すのだが……。やがて、オリンピック、高度経済成長と時代が進み、東京の景色が変貌するなか、その裏側で「無銘」にまつわる事件が巻き起こる。刀に隠された一族の秘密と愛憎を描く美と血のノワール。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
224
第172回直木賞候補作第三弾(3/5)、荻堂 顕、初読です。 本書は、日本刀に魅せられたスーパーゼネコン創業者一族企業大河ノワールの良作でした。まだ今回の直木賞受賞作を読んでいませんが、現時点既読3作の中では、BESTです。荻堂 顕の他の作品も読んでみたいと思います。 https://www.kadokawa.co.jp/topics/12469/2025/01/18
修一朗
135
読み始めてこれ堤康次郎とコクドがモデルになってるって思ったが兄弟の関係性も違うし史実ベースではない。史実の堤康次郎はもっと不動産狂いの暴君だった。戦後の東京を駆け抜けた堤清二を彷彿させる男の一代記。刀の保護は細川家から東京オリンピックのスポンサーは円谷幸吉から拝借して激しかった戦後の東京の変遷を描いている。右寄りの’されどわれらが日々’を想定したそうだけどもそんな感じじゃなくて堂場瞬一の「Killers」の雰囲気。ハードボイルド調のとても好きな文章だ。刀剣保護の歴史については初めて知った。面白かった。2025/04/18
hiace9000
127
烏丸家の宝刀であり守り刀である「無銘」。人を殺める道具でありながらも秘刀に浮かび上がり、見るものを時に魅了し妖しく照り光る美しき地景と呼ばれる刃紋。戦後東京の止むることなく変貌を続ける景観こそ、一族の愛憎と秘密と情念と宿命と共に受け継がれてきた人の「業」という地景か―。硬質な文体が放つ質量が、作品が醸す呪縛や緊迫感で読み手を抑え込み圧し掛かってくる。終盤は魯迅の作品を思わせる深い寂寞に包まれるよう。荻堂さん初読みながら、戦後昭和史をこの角度で表出した特異な切り込む発想に、ガツン!と衝撃を受けるのである。2025/01/29
のぶ
112
重量級の作品ですね。読み始めは主人公の烏丸治道が、父が無法組長に一族の守り神でもある粟田口久国の「無銘」を渡したと知って、物騒な方法で奪い返そうとした物語だったが、活字の密度が細かく、読み通せるか不安になった。その後、治道も社会人となり、父親の会社に入社して時代に即した生き方をしていく様子が描かれると、今度はこの作品のテーマが見えなくなってきた。東京オリンピック(1964年)をめぐる主人公の活躍などは手に汗を握るような部分もあったが、全体を通し掴みどころが見つけ難く、読み通すのがやっとだった。2025/01/10
遥かなる想い
94
旧華族烏丸家の「無銘」に関わる出来事を 綴り、戦後復興から オリンピックへと移ろう 東京の風景を描く。 祖父から 孫へと伝わる名刀を 軸に烏丸家の内部の確執、業を描いた大河小説でもあり、 時代背景の描写も骨太で 読後感は良い。 背後に流れる喪失感・寂寥感は著者の独特の 世界なのだろうか。ひどく儚い烏丸一族の 変遷の物語だった。2025/04/22