ちくま新書<br> 女の氏名誕生 ――人名へのこだわりはいかにして生まれたのか

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ちくま新書
女の氏名誕生 ――人名へのこだわりはいかにして生まれたのか

  • 著者名:尾脇秀和【著者】
  • 価格 ¥1,210(本体¥1,100)
  • 筑摩書房(2024/09発売)
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  • ISBN:9784480076441

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内容説明

江戸時代の女性名は現代とどう違ったのか?「お」の付く女性名はどこに消えたのか? 近代女性名の「子」とは何か? 何が今日の「夫婦別姓」論争を生み出したのか? アイデンティティとして名前に執着する現代の常識は、どのように生まれたのか?――男性名とは別物だった江戸時代の女性名が、明治期に男女共通の「氏名」となって現代の諸問題を抱えるまで、近代国民国家の形成、文字の読み書きや捺印、戦後改革など様々な事象を通して、日本人名文化の歴史的変遷を明らかにする。

目次

プロローグ──愛着の始まりを探して/「お」の付かない現代/女性からみた「氏名」/本書の構成/第一章 江戸時代の女性名/1 「お」の字とは何か? /圧倒的な二音節型/おの字名の「お」/「お」なしの作法/おやすがやすか、やすがおやすか? /並行する正解/「お」は何れより来たる? /2 多様な二音節型/意味不明とはいうけれど/符号としての本質/異なる町村を比べる/だんだん離れてみる/風習はいろいろ/3 三音節型と地域性/三音節型の類型/三音節型の分布状況/濃度の違い/「お」は付かない/四音節型の孤城/類型とその他/これはあなたのお名前か? /第二章 識字と文字の迷宮/1 文字を書くのは誰か? /自分の名前を書けたのか/ムラのある世界/職業と識字/村請制と村役人/「村」と「家」に生きる/無識字もいる日常/再び女性名の森へ/2 仮名文字と仮名遣い/おてゐとは俺のことかとおテー言い/音韻と仮名遣い/音を再生できるか? /方言と相通/書き手の癖? /仮名の字形もこだわらない/伝わるのなら漢字でも/それは書き交ぜではない/姫様にご用心/3 似て非なる捺印文化/実印に名前なし/シルシに始まる捺印文化/家の印と女の印/印からもわかる多表記通行/第三章 名付け・改名・通り名/1 名付けと改名/最初の名付け/女は改名しない? /幼年期の改名/願掛けの名付け/生きるために/婚姻時の改名/名前の相性占い/法名への改名/奉公と通り名/まつ改しげ/名前はその人だけのもの? /昔の名前は出てきません/2 源氏名と三字名/源氏名という通り名/吉原の遊女/禿と芸者と遣り手/京都の芸妓/奥女中の名前/名前が変わっても/3 朝廷女官の呼名/偉すぎる女房たち/それ以下の女房と女中/院・宮・摂家の女房/伊予は小槻敬子/第四章 人名の構造と修飾/1 男の人名構造/男性名との違い/人名以前の氏姓/氏姓の「姓」化/嵯峨天皇と「名」の変革/官位で呼ぶ/実名と仮名の並立/家名の「姓」化/官位の自称と主客逆転/庶民の名前/庶民の苗字/人名的要素は浮気しない/2 女性名の変遷/「売」圧倒の時代/貴族女性の「子」/新型「何子」は形だけ/にょ・こ・のまえ・ごぜん/おの字名への混沌/繁姫源郁子/女性名に苗字は付かない/3 苗字と女房/公儀の常識/近世苗字の三大要素/佐藤のおせん/赤林幸/女房という名前/慣習としての女房/今とは違う人名文化/妻の呼び方/4 文雅の世界は無理をする/およしは葭女、おさとは高子? /飾りの子と女/松本順女と広田濃婦子/無理からみえる道理/巫女の名/やり直しの始まり/第五章 明治の「氏」をどう扱うか? /1 近代氏名の時代へ/日常の瓦解/おいよ・おうたにゃ関係ない/女官たちの改名/苗字自由令と戸籍/そらそうよ/氏名の誕生/男女人名の再合流/2 苗字と女性と新政府/新制「氏」の誕生/内務卿の思惑/妻は夫の姓氏を用いよ/廃案の背景/苗字強制令/内務卿の再挑戦/議論の紛糾/妻は所生の氏を用いよ/民法までは我慢/政府から現場へ/3 現場の判断と種痘名簿/戸長と種痘/種痘医福永謙造/根強い常識/そこにこだわりはあるか? /藤田嘉蔵妻太田はる/4 民法による決着/戸籍用紙の先行/ボアソナード民法/現場の憤懣/「氏名」の確立/第六章 「お」と「子」の盛衰/1 「子」の字の流行と変質/国民国家への改変/三音節型はいつ全国化するか/近代「子」の字の起点/名の一部とみることを得ず/戸籍名「何子」の流行/「お」から「子」へ/非難と弁護のなかで/「お」の字の斜陽2 「子」なしにも「子」をつける作法/「子」は「お」の後継/手紙における「子」の作法/女学生の「妙な流行」/「子」は付けなくていい/変わりゆく執着/第七章 字形への執着/1 四角な文字と片仮名/くずし字を先に学ぶ/文字は手書き/四角な文字の襲来/女性名の片仮名化と識字率/片仮名先習と「変体仮名」の誕生/執着は排他の兆し/実印は一代限り/名を刻む朱色の実印/2 一定主義の勃興/異字の通用/同字の異体/澤も沢も同じ/迷惑な一定主義/女性の「苦痛」/正太郎は庄太郎にあらず/くずし字を書けない若者たち/姓名の字画/3 姓名判断の大流行/流行のはじまり/煩悶と定着/私的な通名/近代氏名の人名文化/第八章 氏名の現代史/1 変わりゆく漢字/占領時代と国語改革/当用漢字と平仮名先習/人名の文字制限/当用漢字字体の出現/「標準」は誰のため? /やむを得ぬ人名用漢字/常用漢字と筆写体/情報機器の普及/2 愛着の確立/法務省の方針/愛着の壁/執着から愛着へ/人名用漢字と手書き/文字コードが違うから/戸籍統一文字/3 個人の氏へ/家の廃止と個人の尊重/高度経済成長/改姓はイヤ/別になんとも/氏への現代的愛着/4 名による個性の顕示/美の字とミ音(昭和二〇~五六年)/戦後二音節型とエ・ミ・カ・オリ(昭和五七~平成二年)/美咲時代と多様化(平成三~一四年)/読めない名前の増加(平成一五~令和四年)/現代男性名概観/名付け意識の分断/フリガナ作戦決行前夜/エピローグ──去る者は日に以て疎く……/女の名前に氏が付く/氏名へのこだわり/同じ呼び名で違うもの/符号と個性の苦悩/来る者は日に以て親し/あとがき/参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

パトラッシュ

138
夫婦別姓反対論者は「家族の一体感を壊す」と主張するが、明治になるまで嫁は実家の姓を名乗っていた。江戸時代に女性の識字率は男に比べ低く、この字はこう書くという規定すらなかったので多表記表現が普通だった。女の名に「子」を付けるのは貴族階級の流行からで、それまでは存在しなかった。女の氏名にまつわる様々な常識が打破されていき、従来のこだわりや思い込みが苗字強制令と戸籍制度整備以降のものだと思い知る。制度のない時代は自由にしていたが、制度に従うのに慣れるとそれ以外は考えられなくなる。人の無知といい加減さを証明する。2024/12/07

ネギっ子gen

58
【「お」の付く女性名はどこに消えたのか。何が現在の「夫婦別姓」論争を生み出したのか――】本書は女性名を主題にして、明治期に男女共通となった「氏名」が、現在までの間にどのような社会的な変化により新たな執着・愛着を形成したのかを明らかにするものである。巻末に参考文献。<日本の人名に時代を超えた“正しい形” “正しい文化”なぞ存在しない。自分が抱いている氏名へのこだわりとは何なのか――。本書をきっかけに少し疑問を持ってみつめてほしい。すると現在の氏名をめぐる問題に、何か違った見方もできるのではないか>と。⇒2025/01/04

よっち

39
男性名とは別物だった江戸時代の女性名が、明治期に男女共通の「氏名」となって現代の諸問題を抱えるまで、日本人名文化の歴史的変遷を明らかにする1冊。「お」の付く女性名はどこに消えたのか?近代女性名の「子」とは何か?識字の問題とかな文字、仮名遣い、似て非なる捺印文化から、名付けと幼少期や婚姻時、法名への改名、奉公と通り名、朝廷女官のそれぞれの呼名。男の人名構造と女性名の変遷、苗字や妻の呼び方。近代氏名の時代への移行、「子」の字の流行と変質に見る「お」と「子」の盛衰から氏名の現代史までなかなか興味深く読みました。2024/10/06

niisun

33
これはなかなか興味深く読めました。昨今の夫婦別姓の議論を行う上で一読の書かと。古来より明治まで、男と女では名前の作り(構成)も意味や位置づけも全く違った。男子の名は個人を識別する“名”、一族やグループを称する“氏”、役割を表す“姓”、そこに官位・位階、通称、称号、苗字、屋号などが時代時代のルールで組み合わさって成り立っていた。“名”こそ変わらないが、現代の“氏”はかつての“氏”とは意味が異なる。また、女性には明治期よりも前まで“名”しかなかったし、民法制定まで女性の姓は結婚後も実家の姓を用いる規定だった。2024/10/28

さとうしん

23
『氏名の誕生』の姉妹編で、前著で描ききれなかった女性の氏名について。「お」のつく名前と近代の「~子」との関係、表記の揺れ社会的身分の変化に伴う改名、苗字をつけないものとされていた女性の名前、そして近代以後の氏名政策と氏名の混乱のはじまりといった話題を扱う。しかし実際のところ、本書は女性の氏名にとどまらず、男性の氏名も含めた印鑑の問題、近代以後の漢字表記の問題、姓名判断の流行など、幅広い内容を扱っている。漢字表記の問題に関心のある向きも読んで損はないだろう。2024/09/28

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