新潮文庫<br> 灯台へ(新潮文庫)

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新潮文庫
灯台へ(新潮文庫)

  • ISBN:9784102107027

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内容説明

「いいですとも。あした、晴れるようならね」スコットランドの小島の別荘で、哲学者ラムジー氏の妻は末息子に約束した。少年はあの夢の塔に行けると胸を躍らせる。そして十年の時が過ぎ、第一次大戦を経て一家は母と子二人を失い、再び別荘に集うのだった――。二日間のできごとを綴ることによって愛の力を描き出し、文学史を永遠に塗り替え、女性作家の地歩をも確立したイギリス文学の傑作。(解説・津村記久子)

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ヴェネツィア

332
「ええ、いいですとも。あした、晴れるようならね」というラムジー夫人の発した言葉で小説が幕を開ける。さりげない一言のようだが、私たち読者もまたこの言葉に誘引され最後まで一種の呪縛を受けるかのようである。これまでにも夙に指摘されているように、小説を支配するのは全てを支配する全能の作者ではない。時にはその主体さえもが疑わしく混乱をまねきかねない作品内意識が、輻輳したイメージを伴いながら小説を牽引する。その意味ではまさしくこれは20世紀小説なのである。そして、時間の凝縮と、断層がまた私たちを悩ませる。難解な小説。2024/12/21

アキ

111
1927年ヴァージニア・ウルフの小説の有名な小説の新訳。第一部と第三部で時は流れ、最後に灯台に行き着くところで話は終わる。しかし、場面の展開はほぼなく、読者は登場人物の内面の声だけで出来事を推測することになる。読んでいて、あまり共感も出来ず、思い入れもなく、淡々と著者の描く"意識の流れ"に付き合わされた感じ。やっと読み終えたが、読後感はやっと終わったという感じでした。灯台に辿り着くという道筋は、人の一生に似ているのかも知れません。うだうだしている内に時は経ち、いつの間にかさえない灯台に到着するのでしょう。2025/04/03

buchipanda3

104
人が抱える内なる心というのはこうして読むと何とも可笑しい。そして愛おしい。声に出さなきゃ他の人には分からない。それでも察して欲しいと拗らせるのは人の性か。同情を求めるラムジー、自意識過剰なジェイムズ、自己顕示欲の高いタンズリー。家族や友人でも、いやそれ故にすれ違う。そんな中、夫人の他者を思いやる心。リリーからすれば与えすぎに見えるもの。でもそれは灯台の光、一条の光。晩餐の差配で充足する皆を見て浸る至福感。内なる心の交錯は人を浮かび上がらせ記憶に残る。絵を完成に導いた影は、彼女に確かな自己を与えもたらした。2024/10/26

71
ヴァージニア・ウルフは20世紀モダニズム文学の主要な作家の一人として有名な女性であり、世界でもっとも「美しい遺書」を書き残し自殺してしまったことでも有名です。そんなヴァージニア・ウルフは一体どんな文章を書くのか触れてみたくて本書を読みました。訳者あとがきによると、回想があり、空想があり、願望があり、後悔があり、人の心の外と内、過去と現在と未来は繋ぎ目も移行部もなしに繋がってゆく。なるほど、そう言われてみれば理解できなかった部分を補完できました。きっと、その辺りが本書の魅力なんだろうと思いました。2024/11/20

おにく

41
以前、岩波文庫で読んだ時には、難解さに舌を巻きましたが、今回は集中も途切れず、最後には感動する事もできました。十年にわたる哲学者一家の歳月を、わずか二日の出来事で情緒豊かに表現。その十年の間には第一次大戦があり、何人かの家族を失っています。亡くなった家族というのは、優しさや包容力を象徴する存在でしたけど、家族の柱と呼べる存在を失っても、残された者たちは悲しみのあと、彼らの隙間を埋めるように成長し、いびつながら新しい家族を作ってゆく。それはまるで、戦争で家族を失った人たちに向けられたメッセージに見えました。2025/02/16

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