内容説明
善悪の概念を問う「グレー」な場面ばかりが訪れる、複雑で予測不可能なERの現場を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
117
新型コロナ期のアメリカは医療崩壊したとされるが、その前から実質的に破綻していた状況をニューヨークの救急救命医が描き出す。救急室で治療を受けられてもガン治療は受けられない患者にアル中で何度も運び込まれるホームレス。人間用の抗生物質を買えず魚用を服用して副作用を起こしたり、過重労働で燃え尽きたり自殺した医療関係者も多い。流行病や大事故ばかり注目されるが、医療システムの無能と矛盾から生まれる日常の「コード・グレー」こそが、救える命を救えていないのだ。無残な現実を変えられない怒りが、トランプを求めたのかと思える。2024/12/03
あゆみらい
14
勉強になりました。アメリカの救急救命室で働いていた筆者が、経験から医療にとって大切なものは何か、を悩み抜いている。「医師は、患者にただ寄り添う犬に負けることもある」「医学部て学んだ知識より救急救命室ではウェイターのバイトで培った客をさばく能力が必要な場面がある」個人的には、言葉が通じない癌でギリシャ人の患者が、患者の家族は癌であることを本人には絶対教えないでほしいと言われていたが、医療通訳越しに話すと全てわかっていたという話が印象に残った。やはり直接話をしてみないとわからない。読みやすいのでお勧めです。2025/01/04
ossan12345
9
大変品性ある語り口で、誠実なノンフィクションと読みました。翻訳も自然でとても読みやすい。コロナをフィーチャーした作品と思っていましたが、救命救急医療そのものの難しさや、あるいは極限までの人間らしさが、丁寧に誇張なく描かれています。シビアな場面が続くなかにも救急室から一歩外に出たかのような静けさも感じる、不思議な書きぶりの作品でした。2024/11/27
y
4
救命救急医というのでテレビドラマでよくあるような切迫した状況を漠然と想像していましたが、本書からはかなり違う印象を受けました。 医療のみならずアメリカの社会課題にも対峙していて、タフな職業だと思いました。 本の構成が工夫されていて、小説を読んでいるような感じもしました。2024/11/07
TTK
3
「魚用の抗生物質は、どこのペットショップでも処方箋なしで買えます。実は服用量が適切なら効くのですが、問題は、小袋に入った薬を巨大な水槽の中で溶かす必要があるので、非常に強力で濃縮されていることです。人間が適切な量を服用するのはとてもむずかしく、失敗するのもめずらしくありません。よくあることです。ペット用の抗生物質を過剰摂取する人は、ほとんどの場合、魚用の製剤を飲んでいますね。患者さんが医者にかかる余裕がないのなら、次回は犬用か猫用の抗生物質を手に入れようとしたほうがいいでしょう」p.1642024/11/17