内容説明
これは、「遠い昔」や「遠い場所」の話ではない。なぜ、あの独裁者の台頭を許してしまったのか――。本書は当時、ドイツの街頭や酒場で起きていた「暴力」に着目し、それが共和国の政治や社会を蝕んでいった過程をひもとくことで答えを探る。ナチスの支配が、あるとき突然発生したわけではないことを明らかにする画期的な一冊。
目次
序章 ワイマル共和国と政治的暴力
第一章 暴力で始まった共和国――共和国前期の政治
第二章 街頭に出ていく政治
第三章 市中化する政治的暴力
第四章 頻発化する政治的暴力
第五章 日常化する政治的暴力
第六章 ワイマル共和国の終焉
終 章 「ワイマル共和国」を考える
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
136
ワイマル共和国は人権を保障した憲法に基づく民主主義国家とされるが、内実は左右の政治的暴力が横行する恐怖の時代だった。発祥期には軍が共産党のレーテ共和国を滅ぼし、返す刀でナチスのミュンヘン一揆を叩き潰した。その後は各政党が私兵を備え、街頭で敵と戦った。ナチスの溜り場になった酒場を共産党が攻撃し、その逆も起こるなど戦国期さながらだが、反政府暴動ではないため穏やかな時期とされたほどだ。ここまで暴力が政治を動かしたのは、ドイツ人が明日を信じられなかったからだろう。大統領選後のアメリカは第二のワイマルにならないか。2024/11/01
Nat
36
図書館本。学生時代に世界史で第一次世界大戦後に生まれたワイマル共和国について学習したときは、理想的な民主主義の共和国といった認識だったので、そこからナチスが台頭したことが不思議だったが、この本を読んでワイマル共和国の問題について知ることができた。ワイマル期には常に政治的暴力が存在し、その雰囲気の中で暴力に対する耐性ができていった。またそんな空気の中で、ナチスが社会の中で存在感を増していった過程がよくわかった。身体的暴力が言語的暴力に置き換えられ、街頭がSNS空間に移ったというだけでワイマル共和国の→2025/01/30
川越読書旅団
25
昨今のポピュリズムや右傾化が横行する状況に愁いを持ち、そう言えば、これってもしかしたらワイマルからナチ政権に移行する際の現象に類似している?と、手に取る。膨大な資料に裏打ちされた同書は、当時最も先進的な民主憲法を備えていたと言われるワイマル体制から、ナチス政権がいかに一党独裁体制を築き上げたのかを明瞭に解説する。もうすぐ解散総選挙、ワイマルの歴史に精通する候補者はさているのだろうか?? 2024/10/19
kuukazoo
17
学校の世界史でははしょられるワイマル共和国の成立~崩壊の政治史を詳述、平行して国内の政治的暴力の変化を分析。WW1後ドイツ革命を経て成立したワイマル共和国は14年しか続かず21回も内閣が変わり、議会の外では対立政党の武装団がヤクザの抗争のごとく連日街頭で暴力を繰り返していた。議会政治のぐだぐだに伴い政治的暴力は体制転覆志向型(反体制派vs公権力)→党派対立型(ナチスvs共産党)→国家テロ型(ナチスによる一方的な暴力)と変遷。当時は街頭での暴力がプロパガンダとなるなど暴力がサブカルチャー化し許容されていた。2025/05/17
ジュンジュン
17
なぜワイマル(民主主義)からナチズム(独裁)が生まれたのか?永遠の命題とも言えるこの問いに、「政治的暴力」を”武器”に挑む。まず、共和国1918~33年の歴史を前期(混乱期)、中期(安定期)、後期(崩壊期)に分ける。その上で、その時々の政治史と政治的暴力(政治的動機を持つ暴力)をリンクさせて描いていく。ワイマル史が頭の中で整理できて、とても分かり易かった。最後の”扇状地の例え”で論旨も明快。2025/02/06