岩波現代文庫<br> 増補 総力戦体制と「福祉国家」 - 戦時期日本の「社会改革」構想

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岩波現代文庫
増補 総力戦体制と「福祉国家」 - 戦時期日本の「社会改革」構想

  • 著者名:高岡裕之
  • 価格 ¥2,068(本体¥1,880)
  • 岩波書店(2024/08発売)
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  • ISBN:9784006004798

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内容説明

「福祉国家」日本のルーツは本当に戦時期にあるのだろうか──厚生省設立や国民健康保険制度などの「戦時社会政策」をめぐる政府や地方と軍部とのせめぎ合いに着目し,戦後のあり方とは異なる,戦時期の総力戦体制=「福祉国家」の姿を浮かび上がらせる.戦時人口政策に大きな役割を果たした社会学者・高田保馬を論じた補章を付す.

目次

序章 戦時期日本の「社会国家」構想
ファシズム・総力戦・福祉国家
「天皇制ファシズム」論
「日本ファシズム」論
総力戦体制論
福祉国家論
福祉国家=総力戦体制源流論
本書の課題
第一章 厚生省の設立と陸軍の「社会国家」構想
1 厚生省の設立過程
「社会保健省」と「衛生省」
内務省と陸軍の角逐
2「壮丁体位」低下の実像
「壮丁体位」低下問題に関する通説的理解
「壮丁体位」低下の実態
体格等位の変動の意味するもの
3 陸軍省医務局長・小泉親彦
小泉の提唱した軍陣衛生学
「人的戦力」とは何か
4 小泉の「壮丁体位」低下論
「筋骨薄弱者」と結核
「壮丁体位」低下の社会的要因
5 「衛生省」構想の特徴
モデルとしての「全体主義」国家
衛生主義的「社会国家」
6 衛生主義的「社会国家」構想の挫折
「保健社会省」設置の理由
陸軍の巻き返しと大臣人事
「衛生省」構想の挫折
第二章 広田―第一次近衛内閣期の「社会政策」と「社会国家」
1 二・二六事件と「農村社会政策」
二・二六事件の衝撃と「社会政策」の復活
「農村社会政策」の浮上
2 農村医療問題と国民健康保険
「農村社会政策」と国民健康保険
医療組合運動の登場
「医療の社会化」と医療利用組合
国民健康保険と医療利用組合
地域医療システムとしての医療利用組合
産業組合の国保「代行」と農村保健運動構想
国保代行問題の帰結
3 農村過剰人口と二つの人口政策論
「農村過剰人口」という認識
一九三〇年代の人口動向
上田貞次郎の商工主義的人口政策論
那須皓の農本主義的人口政策論
二・二六事件と農本主義的人口政策論の政策化
農村社会改革構想としての分村移民事業
職業行政と商工主義的人口政策論
4 生産力拡充政策と「社会国家」
軍備拡大と生産力拡充問題
近衛内閣における「社会政策」
「農村社会政策」のゆくえ
第三章 戦時労働政策と「社会国家」
1 戦時工業化と生産力主義的「社会国家」
日中戦争と「第二の産業革命」
戦時下における労働力問題
「人的資源」配置策としての「戦時社会政策」
「戦時社会政策」=「社会国家」と日本経済の「再編成」
2 労務動員計画と戦時労働政策
生産力拡充計画と労務動員計画
労務管理調査委員会の労働政策構想
3 労働者年金保険の成立
年金保険構想の登場
労働者年金保険制度の再浮上
賃金臨時措置令と職場の荒廃
4 戦時住宅問題と住宅営団
労務者住宅問題と住宅供給計画
住宅営団の設立
西山夘三の戦時住宅政策論
住宅営団の現実
5 生産力主義的「社会国家」の歴史的位置
第四章 戦時人口政策と「社会国家」
1 日中戦争下における人口政策論の転換
人口政策論の転換過程
舘稔の人口増殖論
人口増殖政策の根拠
2 民族問題としての人口問題
人口問題の再定義
古屋芳雄と民族科学
日本学術振興会第一一特別委員会
3 「人口政策確立要綱」と民族―人口主義的「社会国家」
第二次近衛内閣と「基本国策要綱」
目標としての人口一億
人口政策の具体案
4 戦時人口政策と農業人口問題
農業人口をめぐる対立
農業「近代化」と「適正規模農家」論
民族=人口政策論と農業政策論
「人口政策確立要綱」と「農業政策要綱」
戦時「農地改革」構想と「農業新体制」
農業人口「定有」の論理
「農業政策要綱」の挫折
5 戦時人口政策と国土計画
国土計画への期待
第四回人口問題全国協議会と国土計画
人口政策的国土計画論
6 戦時人口政策の屈折
第五章 「健兵健民」政策と戦時「社会国家」
1 日中戦争下の医療制度改革論
医薬制度調査会と「医療制度改善方策」
医薬制度調査会と産業組合
日中戦争下の農村保健問題
「農業新体制」と全国協同組合保健協会
2 国民厚生団と日本医療団
小泉の医療制度改革構想
国民厚生団の構想
国民厚生団から日本医療団へ
日本医療団の現実
3 戦時下の国民皆保険
小泉親彦と国民健康保険
国保普及五ヶ年計画と「厚生組合」
国民健康保険組合普及運動
戦時「社会国家」の基盤
戦時国民皆保険の内実
4 国民体力管理と健民修錬
国民体力法
「結核対策要綱」と健民修錬
総力戦下の「壮丁体位」低下
体力章検定と基礎体力
アジア・太平洋戦争下の体力章検定
大日本体育会と「国民体育」
終 章 戦時「社会国家」の歴史的位置
補 章 高田保馬と戦時人口政策
1 高田保馬の社会学
高田における社会学
「高田社会学」の理論体系①―社会の構造
「高田社会学」の理論体系②―社会の変動
「高田社会学」の「普遍性」
2 高田保馬の人口論
高田の「貧乏論」
高田の人口研究と産児制限問題
フランスの出生主義的人口論
高田の民族主義的人口論
「民族=人口主義」というイデオロギー
高田の農村論
3 総力戦体制と高田保馬
日中戦争と高田保馬
戦時人口政策と高田保馬
国土計画と高田保馬
4 おわりに

あとがき
岩波現代文庫版あとがき
用語リスト

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

masabi

10
戦時の総力戦体制下で進められた社会政策と福祉国家の連続性を示す。兵士や軍事物資の安定供給を求める軍部と総力戦体制で日本の近代化を推し進めようとする政策ブレーンの利害が一致し、労働規制や国民皆保険が実施されていく。戦前期は人口過剰が問題になっていたイメージを抱いていたが、数十年先の少子化を問題視していたようである。政策実施にしても多様なアクターが構想を語り合従連衡することで、非軍事的目的のものも進められる。ただし、目下の戦争による物資や人員の確保が困難だという理由で頓挫した政策も多々あった。2024/11/30

ポルターガイスト

6
「総力戦体制で生み出されたものは実はたくさんある,たとえば国民皆保険・皆年金制度とか」みたいな議論は刺激的で面白いし,社会保障制度が隠れた日本最大のガンと見做されつつある現在ではこういう話は注目されてくると思う。しかし実際にはそんな単純な話ではない。戦前から構想はあり,それが総力戦体制下で異なる意味づけを与えられたというのが実情に近く,しかも必ずしも軍部が希望した意味づけに成功したわけでもない。そして現代社会のあり方の変遷が,社会保障制度のどの起源に注目させるかを変えていく。2024/09/29

富士さん

5
このような議論を読むと、サヨクだウヨクだと言っている議論が滑稽です。戦時体制と福祉国家は関係しているが「直接」つながっていないということですが、現実的にはどんな出来事でも、意図まで完全に維持されたまま達成され、続いてくなんてことはあり得ないので、違いがあるから同じでないというのは意味がない気がします。実際の議論を跡付ける価値はありますが、本書を読んでも連続性が敷衍されたと感じました。特に、個人は公のものであるとの「社会主義的」な思想が、福祉が権利であるとの心性を現在まで一貫して育てているように感じます。2024/11/22

5
戦後福祉国家の淵源を、そのドイツ的概念である戦前戦中の「社会国家」に見出し、総力戦体制と戦後との連続性を論じる立場に立ちつつ、総力戦体制・戦時社会政策として一口に語られがちな領域が多様な構想やアクターのせめぎ合う場であったことを、戦時期当時の実態を明らかにすることで描く本。2011年刊行のものに、社会学者・高田保馬を論じた補章が追加されているが、これも知識人と政策の関係を考える上で大変おもしろかった。2024/08/17

Go Extreme

2
戦時期日本の社会国家構想: ファシズム・総力戦・福祉国家 総力戦体制論 福祉国家=総力戦体制源流論 厚生省の設立と陸軍の社会国家構想 広田―第一次近衛内閣期の社会政策と社会国家 戦時労働政策と社会国家 戦時人口政策と社会国家: 日中戦争下人口政策論の転換 民族問題としての人口問題 戦時人口政策と農業人口問題 戦時人口政策と国土計画 戦時人口政策の屈折 健兵健民政策と戦時社会国家: 日中戦争下の医療制度改革論 国民厚生団と日本医療団 国民体力管理と健民修錬 戦時社会国家の歴史的位置 高田保馬と戦時人口政策2024/09/04

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