- ホーム
- > 電子書籍
- > 教養文庫・新書・選書
内容説明
近年、モンゴル帝国に関する研究が文献、考古学ともに長足の進歩を遂げ、従来の「野蛮、残虐」といったイメージは大きく修正が迫られています。とくに遊牧民によってユーラシア世界が統一された結果、情報の伝達と交易が飛躍的拡大、それによってはじめて「世界史」が生まれたとみる考えかたは常識となりつつあります。
また、遊牧民の世界は定住農耕とはまったく別の論理に基づく社会システムであって、そこに優劣はありえないことを多くの人が理解しはじめており、なかでも女性の役割がきわめて大きかったことが注目されています。たとえば2010年に刊行されたアメリカの文化人類学者ジャック・ウェザフォードによるThe Secret History of the Mongol Queensは欧米人のモンゴルやユーラシアの遊牧民に対する偏見、ヨーロッパ中心主義を打破するために書かれ、ベストセラーとなりました。。
本書も同様にチンギス・ハーンの征服とその子どもたちによる勢力拡大がどのようになされていったか、武力だけに頼らない婚姻政策の実態、また権力闘争の舞台裏を描き出します。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
138
モンゴル帝国と聞くと草原を疾駆する騎馬民族の国と考えるだが、男が騎兵として戦う裏で女が家族の紐帯をしっかり握っていた。そのカギとなるのが兄の寡婦を弟が娶る嫂婚制であり、妻と母の血統が宮廷内を制して自らの息子を王位に押し立てる力となったことを論証していく。チンギス・ハーン以降のモンゴルでは男の失敗で帝国が傾く一方、実質的には皇妃や皇帝の愛妾一族が宮廷を差配するのが常態化した。末期には奇皇后のように献上された女ながら、皇帝を支配する者すら現れる。初めてモンゴル人学者が提示する、従来のモンゴル観が一新される書。2024/11/09
さつき
69
モンゴルには興味があっても、今まではチンギス・ハーンやフビライ・ハーンなど男達を中心にした物語しか読んでこなかったので、女性に注目した本書は意外なことばかり。チンギス・ハーンの母ウゲルンやその后ボルテ、オゴタイ・ハーンの后ドゥレゲネ・ガトン、フビライ・ハーンの母ソルカクタニ・ベキ、モンゴル再興の立役者マンドハイ妃などなど賢く大胆な女性達が次々登場します。男達の戦いが熾烈なのと同様に、彼女達の忍従も復讐も桁違いに激しく圧倒されました。2024/08/21
33 kouch
36
世界史において、その圧倒的なパワーで大陸を席巻したモンゴル。西欧でも露で中華圏でもない個性を持つ。ひとつキーとなるのは遊牧民ということだろうか。定住→ヒエラルキー発生→維持のための名目必要→宗教発生といったお約束の流れが、モンゴルにはない。キリスト教、儒教が浸透していないぶん野蛮に一見見えるが、一方で人や家族体を純粋に愛する強固な組織を築いている。特に女性を1人の独立した人間として尊重しており、先進国でありがちな役割の偏見もない。他の家族や民族も受け入れときに権力者までも改宗したり柔軟性も素晴らしい2025/03/08
イトノコ
36
自身もモンゴル出身の著者が、モンゴル帝国の歴史を女性の視点から捉え直す。主に后・姫の視点になり、外征よりも皇位継承争いなどが話の中心になるのは致し方ない所。女性の地位が(他の文化圏に比べ)高かったと言う著者の主張が全面に出過ぎてやや話半分に聞く必要はあるが、グユクやムンケ即位前の彼らの母…トゥレゲネとソルコクタニの暗躍は他の書籍にも書かれていた事で、皇位継承における后の発言力が強かったのは確かなのだろう。レヴィ・レート婚やクリルタイの主催、ハーン即位までの執政など、后が権力を持ちやすい構造だったのだろう。2025/01/27
りー
29
「天幕のジャードゥーガル」で興味を持ったので手に取った。島国で暮らす自分の感覚では分からないところだったが、「国」を越えてまず「部族」があるんだなーというのが1つ目の感想。その中でも貴種とされる部族があって、モンゴルの中では圧倒的にコンギラート族、ケレイト族から妃が娶られている。男は戦争に行って挙げ句に死んでしまったり暗殺されたりするので、その後を守るのは女たち。実際に政治を動かしていた期間の長さに驚かされた。日本史では「元」として見ることが多いが、その視点ではごく一部しか見えないんだとしみじみ思った。2024/10/20