内容説明
「なぜ朝敵と言われなければいけないのか。我に何の罪があるというのか――」心ならずも「朝敵」とされた桑名藩主・松平定敬(さだあき)は、兄で会津藩主の松平容保(かたもり)とともに徳川家のために戦おうとするが、新政府に従うことを決めた最後の将軍・徳川慶喜に遠ざけられてしまう。一方、上方に近い桑名藩は、藩主不在のなか、重臣・酒井孫八郎のもとで官軍に白旗を掲げ、藩主を幼君に挿げ替えて新政府に恭順することを決める。藩主の座を追われた定敬は、わずかな家臣とともに滞在していた江戸を離れることに……。帰国することもできず、越後、箱館、そして上海まで彷徨うことになった男は、心に如何なる哀しみを宿していたのか。美濃高須松平家の四兄弟の運命を描いた、本書の姉妹編『葵の残葉』で新田次郎文学賞&本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞した作家が、幕末の悲劇を炙り出し、明治維新とは何だったのかを改めて問う傑作歴史小説。
感想・レビュー
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inarix
4
鳥羽伏見の戦いに敗れた幕府軍は再起を期して大坂城に撤退するが、総大将・徳川慶喜は密かに城を脱出して江戸へと向かう。兄である会津藩主・松平容保らとともに慶喜に従った桑名藩主・松平定敬だが、やがて慶喜は兄弟を遠ざける。国許は新たな藩主を据えて官軍に恭順し、帰ることさえできなくなった定敬は残った僅かな家臣とともに戦地を北上していくが、どこに行っても、何を成そうとしても、歴史の『当事者』にはなれず、ただ彷徨うしかなく……。維新の激動の中、役目も居場所も見出せないまま歴史の中に埋もれた松平定敬の哀しみを描く一冊。2024/08/09
はしめ
1
逃げて、かつがれて。流されたのか。でもね、その後は収まるところにおさまってた。神輿と呼ばせてもらおうか。2024/08/25
Ryo0809
1
明治維新の日本。桑名松平家の定敬の翻弄される姿を描いた作品。「葵の残葉」の登場人物でもある定敬は、桑名藩主に養子として迎えられ、孝明天皇にも徳川家茂にも信頼を得ていた京都所司代であるが、慶喜に裏切られる。薩長の掲げる錦の御旗に抗戦し、逆賊と謗られながら、北陸、会津、箱館と転戦する。最後はなんと上海まで流れてゆく…。慶喜をはじめ、お家第一と周囲が次々に恭順してゆくなか、義を貫くことの難しさがひしひしと迫る。会津藩主・容保との兄弟愛にも心が動く。幕末の大動乱の一幕に肉薄した作品である。2024/07/20