内容説明
【第35回小説すばる新人賞受賞第一作】
デビュー作『楊花の歌』
Apple Books 2023年ベストデビュー作(歴史フィクション)第12回歴史時代作家協会賞新人賞部門候補
第3回本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞候補
【東山彰良さん推薦!】
本当の自分への逃走はこんなにも輝かしい
25歳のサチコは、不条理な派遣労働から逃れるように亜熱帯の台湾に渡り、偶然再会した在日コリアンのジュリと、台北の迪化街で暮らしていた。
誕生日の晩、サチコが古物商の革のトランクのなかに日本統治時代の台湾を生きた女学生の日記をみつけたことから、ふたりの生活は一変する。
普段は引きこもっていたジュリだったが、その日記を書いた女学生の行方調査に夢中になり、やがて大きな謎につきあたった。
それは、70年以上前、深山に囲まれた日月潭という湖で起こったある少女の失踪事件だった。
遠い昔に姿を消した少女を探す旅は、いつしかふたりのアイデンティティを求める旅につながってゆく――。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シャコタンブルー
61
ある女学生の日記を発見したことで現代の台湾と日本統治時代の台湾が70年の時を超えて繋がる。親日と言われる台湾だが当時の歴史を改めて振り返ると複雑な心境に陥る。台湾人・朝鮮人への差別、偏見が蔓延していた時代。日本人が理解しようとしなかった彼等の心境。複雑に歪んで折り曲げられた感情がそこにある。その怨念が残酷で悲惨な事件をもたらす。日月潭に消えた少女の謎を追うサチコとジュリ。彼女達も自身のアイデンティティで悩み苦しみながらも真実を求める。深い霧が晴れた先の景色は悲哀で満ちていた。2024/08/20
R
49
現代の台湾を舞台にして、日本統治時代にあった失踪事件を解き明かしていくミステリ小説。がっつり謎解きというではなく、ほんわかと性志向や国籍や差別といった内容を包含しつつ、異邦の地で生きる女性の姿を描いている作品で、愛情や想いというものに強く惹かれる物語だった。終盤は、思いもよらぬスリリングな展開になって驚いたのだが、本当にこんなことがありそうな、あえて登場人物が生粋の台湾人ではないというところも含めて面白い小説だった。2025/05/16
konoha
42
柔らかい文章が独特の味わい。日本人作家が台湾の空気感をリアルに表現できることに驚いた。台湾でルームシェアする日本語教師のサチコと在日コリアンのジュリは古い日記の持ち主、秋子の人生を追う。調査と日記が交互になる構成は慣れると読みやすい。日本統治時代に歴史や家族に虐げられながら生き抜いた秋子と白川さんはサチとジュリに重なる。2人の若さゆえの揺らぎや苦悩が切なく少しうらやましい。年齢や国籍を問わない躍動感あるやりとりが魅力的。後半はミステリーや暴力に寄りすぎた気がする。台湾のご飯が美味しそう。2025/06/10
信兵衛
23
日月潭という響きには魅了されますし、少女たちのシスターフッド的ストーリーは雰囲気が良く、読んでいて楽しい。 また、日本統治時代の台湾の様子には興味尽きません。2024/08/12
kum
22
日本統治時代に日月潭で起きたひとりの少女の失踪事件を軸に、台湾の現在と過去をつなぐ物語。偶然手にした少女の日記を手掛かりに事件の謎に迫るサチコとジュリの行く先には驚くべき真実が待ち受ける。日本統治時代を生きた人たちの心情はそれぞれに複雑でこの本から受ける印象が全てでもないだろうが、私たちは歴史を正しく知らなくてはいけないとあらためて思った。過去を追う旅はサチコとジュリのアイデンティティにもつながっていくが、2人の関係性の部分はちょっと盛り込みすぎのようにも感じた。2024/11/15