内容説明
戦争を「事実」ではなく「感情」で描いた証言文学の金字塔
プロパガンダに煽られ、前線で銃を抱えながら、震え、恋をし、歌う乙女たち。戦後もなおトラウマや差別に苦しめられつつ、自らの体験を語るソ連従軍女性たちの証言は、凄惨だが、圧倒的な身体性を伴って生を希求する。そうした声に寄り添い「生きている文学」として昇華させた本作をはじめ、アレクシエーヴィチの一連の作品は「現代の苦しみと勇気に捧げられた記念碑」と高く評価され、ノンフィクション作家として初のノーベル文学賞を受賞した。原発事故、差別や自由、民主主義等、現代世界への問いを提起し続けるアレクシエーヴィチの文学的価値を親交の深い著者が語る。特別章ではロシアのウクライナ侵攻以降の状況も解説し、読書案内も収載。
【内容】
はじめに――人びとの声を紡ぐ
第1章 証言文学という「かたち」
第2章 ジェンダーと戦争
第3章 時代に翻弄された人びと
第4章 「感情の歴史」を描く
ブックス特別章 逆走する歴史
読書案内
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
千穂
18
『同志少女よ敵を撃て』コミカライズ版『戦争は女の顔をしていない』に続き、理解を深めるために図書館本で。祖国のために戦った女性が戦後、銃後の女たちから非難されるのがやりきれない。生き証人の記録は何より心に響く。泥沼化するウクライナ侵攻が1日も早く平穏化することを願う。2025/06/28
ラウリスタ~
7
第二次大戦に志願して参加したソ連の女性兵士たちへのインタビューをまとめた「文学」。インタビュアー自身の言葉はほぼないが、同じ女性として、公式的な戦記ではない、日常や恋も交えた記憶を引き出す場を作り出す(夫などはいない場が重要)。共感、感情、など女性的という紋切り型を追認するような側面もなきにしもあらずだが、それにとどまらない多声的文学(ドスト後継)であると主張。終戦後に帰国すると、男たちは英雄となるのに、同じように戦った女たちは、銃後の「良妻賢母」たちから売女扱い(戦場で恋があることは事実だが)される。2025/02/01
takakomama
5
2021年8月に放送の「アレクシエーヴィチ 戦争は女の顔をしていない」のテキストを加筆修正。ブックス特別章「逆走する歴史」、読書案内などを収録。国家のプロパガンダではなく、戦争の体験者が生きているうちに話を聞いて、事実を後世に伝えることが重要だと思います。戦争は勝っても負けても悲惨です。2025/06/04
merci
3
☆☆☆自分より少し下に立場の人に対する哀れみを意味する「同情」ではなく、対等な立場にいる相手に感情移入する「共感」を持って、トラウマを抱えた人たちに寄り添い、時に涙しながら、自分のことのように心を寄せて証言に耳をすます。だからこのような作品が生み出せたのだろう。2025/06/07
のせなーだ
2
戦争に息子を夫を送り出す女、自ら戦争で戦う女まで。戦争で消音のため泣く子を殺す母親。飢え不潔汚れ、グロテスクな実態(戦争を発動した権威者は清潔飽食、殺人を命令するだけ)を検閲で隠す戦争の闇、膨大で不条理な戦死、膨大すぎる損害。プロパガンダを受け入れ望む市民心理。丸腰の市民や子供たちを殺し続けるイスラエル兵たちの顔は?命を嘲笑する、正義真実など頭にない顔。戦争の目的は殺人と公然化している。地球上でもっとも愚かな人間が繰り返す戦争。「安全の脅威」ほど戦争準備を訴えるスローガンはない。戦争愛好者はなくならない。2025/06/08