内容説明
1968年から1981年という長きにわたり文芸雑誌「群像」に連載され、1982年に全3巻で刊行されると野間文芸賞を受賞した、小島信夫の『別れる理由』。
長期におよんだ連載中、「筆者と編集長しか読まない」と揶揄されたことすらあったという大長篇小説に江藤淳『自由と禁忌』以来久々にスポットライトを当て、江藤淳を含む同時代の他の評者が掴まえそこねた作品世界の全貌を初めて明らかにする作品論が本書である。
現代日本文学の最高傑作、あるいは天下の奇書、どちらとも取れる『別れる理由』は平易な文体で描かれるが、やはり小説でしかなしえない異様な世界を形成している。
そのような作品がいかなる状況下で成立したのか、その作中に流れる時間はいかなるものなのか、作家小島信夫が執筆当時に考えていたことはいかなることなのか、……多彩な要素に満ちた大長篇小説小説にきっちりと寄り添うことで筆者坪内祐三が掴んだものに触れるとき、読者は批評的な読解の愉しみを知ることになるのである。
目次
『別れる理由』が気になって
参考資料
『『別れる理由』が気になって』の「あとがき」に代えて 坪内祐三
何という面白さ!――『「別れる理由」が気になって』を読んで 小島信夫
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hasegawa noboru
15
1977年10月号『群像』に発表された藤枝静男の「悲しいだけ」を新聞の文芸時評で絶賛した若手批評家(柄谷行人)の文を引用しつつ取り上げている。孫引きになる。<この作品は妻が死んだことへの「悲しみ」に書いているのではない。><だが、彼はそれが言葉でも感情でもなく「物質」のように存在するというほかはない><悲しいという私の「意識」ではなく、「悲しいだけ」が存在するのである。いいかえれば、存在することがかなしいのだ>分かったような分からぬような、がん緩和ケア病棟の妻のベットの横で付き添いながらこの本を読んだ。2025/06/03
Inzaghico (Etsuko Oshita)
7
雑誌連載中は筆者と編集者しか読者がいないと揶揄されたという。主人公の大学教授のだらだら相手をとっかえひっかえ続く女性関係やら、突然作中に出てくる実在の作家やら、急に作家本人が読者に語りかける回が出てくるやら、摩訶不思議な作品のようだ。 ツボちゃんは相変わらずディテールをよく見ているな、と思ったのが、作品そのものではないが、小島信夫が坂上弘の作品を批評したときに取り上げた「貴殿」という表現だ。小島曰く英語のYouという単語を「貴殿」にしたときに、読者にある見方を強いる、というのはまさにその通り。2024/08/27
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