内容説明
本を片手に、戦う勇気ではなく逃げる勇気を。
言葉を愛する仲間たちに贈る、待望のエッセイ集。
「国でいちばんの脱走兵」になった100年前のロシアの詩人、ゲーム内チャットで心通わせる戦火のなかの人々、悪い人間たちを化かす狸のような祖父母たち──あたたかい記憶と非暴力への希求を、文学がつないでゆく。
「もし本が好きになったら──私たちがその人たちを見つけて、めいっぱい大切にしよう。世界中のたくさんの本を翻訳して、朗読して、笑ったり泣いたりしよう。」(「クルミ世界の住人」より)
紫式部文学賞を受賞したロングセラー『夕暮れに夜明けの歌を』の著者による、最新エッセイ集。
【もくじ】
クルミ世界の住人
秋をかぞえる
渡り鳥のうた
動員
ほんとうはあのとき……
猫にゆだねる
悲しみのゆくえ
土のなか
道を訊かれる
つながっていく
雨をながめて
君の顔だけ思いだせない
こうして夏が過ぎた
巣穴の会話
かわいいおばあちゃん
年の暮れ、冬のあけぼの
猫背の翼
あの町への切符
柏崎の狸になる
あとがき 文化は脱走する
【装幀】
名久井直子
【装画】
さかたきよこ
目次
クルミ世界の住人
秋をかぞえる
渡り鳥のうた
動員
ほんとうはあのとき……
猫にゆだねる
悲しみのゆくえ
土のなか
道を訊かれる
つながっていく
雨をながめて
君の顔だけ思いだせない
こうして夏が過ぎた
巣穴の会話
かわいいおばあちゃん
年の暮れ、冬のあけぼの
猫背の翼
あの町への切符
柏崎の狸になる
あとがき 文化は脱走する
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
榊原 香織
125
新作エッセイ。ロシア関係者としては時節柄戦争のことが多い。 エッセイもやはり良いなあ。 本が好きな人の顔、ていうのがあるんじゃないか、て、いいなあ。2024/10/15
アキ
104
「夕暮れに夜明けの歌を文学を探しにロシアに行く」が素晴らしかったので、エッセイを読んでみました。ロシアがウクライナに侵攻したのが2022年2月で、その年の6月「クルミ世界の住人」から今年の4月まで群像に連載されていた文章。著者の幼い頃から文学好きであったこと祖母の新潟での思い出、好きなロシアの詩、猫好きで鯨も好きな話など、穏やかで温かく、それでいて芯のある生き方をされている方だと感じました。文章も読みやすく、品があり、思いやりに満ちていました。そして柏崎に住むとは。とても真似できないストイックな方ですね。2024/08/18
fwhd8325
102
著者の生活が垣間見える点では共通なのでしょうが、エッセイの切り口は様々。著者はロシア文学の翻訳をされていて、随所にロシア文学が引用されています。その世界観に縁はないけれど、そういうものなんだと納得させてくれる魅力を感います。この感覚に近いものは、くぼたのぞみさんのエッセイがありました。原文と翻訳、そして現実という多面的な世界観ですが、騒がしくなく静かで落ち着いた時間を感じさせてくれます。2025/07/08
どんぐり
90
ロシア文学者で翻訳家奈倉有里さんの2022年から2年間にかけて書かれたエッセイ。ロシアのサンクトペテルブルグに留学した20歳の頃のことに始まり、いまも続くロシアとウクライナの戦争で考えたことや文化のもつ意味を問う21篇。匿名性のなかでロシア、ウクライナの人たちと共に交わす〈巣穴の会話〉。人を殺し殺される“おもちゃ”にされないために、どんな勇気が必要なのか。戦争があり、日常があるなかで、「今日も東京に朝がきて、モスクワとウクライナに日がのぼる。爆弾に背を向けて、文化の巣穴を掘る」著者の見識にとても共感する。2025/07/20
しいたけ
70
奈倉さんの本は、弟さんの逢坂冬馬との共著も含めて3冊目。姉弟でのトークショーに行ったことがあり、勝手に親近感を持っている。奈倉さんの文章は綺麗で穏やかで、平和への熱い思いがベースにあって、読むと背筋が伸びる感覚がある。奈倉さんのフィールドワークであるロシアのこと、ウクライナのこと。極々身近なこととして今も思い煩っておられることだろう。その思いに触れて想像する時間を持てたことに感謝する心持ちになった。2025/06/23