内容説明
40年ぶりに帰るふるさとで待っていたのは、初めて会う〈母〉だった――。大企業の社長として孤独を抱える松永徹。退職と同時に妻から離婚された室田精一。親を看取ったばかりのベテラン女医・古賀夏生。人生に疲れた三人が選んだのは「里帰り」だった。囲炉裏端に並ぶ手料理や不思議な昔話。母と過ごす時間が三人を少しずつ変えていく……すべての人に贈る感涙の物語。ふるさとを、あなたへ。(解説・赤坂憲雄)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hiace9000
144
"母の待つ里の駅頭に立って"から始まる冒頭の一文で読み手を一気に作品世界へと遷移させる至高の文章力。"言葉による描写"と"仮想世界の現実感"、その圧倒的質感に包み込まれる浅田文学。観たこともないはずの景色が、何故だろう、堪らなく懐かしい。人の幸せは繁栄だけがもたらすのか。郷愁とともに蘇る理想の故郷。里で子の帰りを一人待つ母は、飾らぬ愛情で"我が子"を受け止める。自然に包まれ過ごすなかで人は本当に得たかったものや失ってしまった事実をみる。大人世代の誰もが、自らの生き方や生きるべき場所に還ることのできる名作。2024/09/06
となりのトウシロウ
106
大企業の社長松永徹、定年で退職金をもらった途端熟年離婚された室田精一、認知症介護の母を亡くした女医・古賀夏生、還暦前後で孤独で寂しく独りで東京で暮らす三人には故郷と呼べる場所がない。カード会社が提供するプレミアムクラブメンバー限定のまさにプレミアムな故郷サービス。なんとも怪しげなサービスだが、3人はそこで会う見ず知らずの母に、癒され、励まされ、安らぎを得て、本来の自分を取り戻していく。実の母を想うからか、それとも『ちよ』の子を想う気持ちが強いのか。自分にはもうひとつだったけど、ラストはジンときました。2024/12/07
ノンケ女医長
96
文庫本で再読。表紙に描かれた、高齢の母。どうしてあんなに、故郷を訪れる子どもたちを深く、そして丁寧に愛することができるのか。それは、物語の最後に母が独白して明らかになる。内容に、やっぱり涙が出る。人は、傷つくからこそ、愛が分かるし、人を求めずにはいられない。大金を支払ってでも。ストーリーが見事で、この大作は忘れたくない。2024/09/13
佐々陽太朗(K.Tsubota)
65
読み始めになんだかおかしいという違和感を感じていた。その正体が明らかになるとある種の白けが襲ってきた。初めて浅田氏に期待を裏切られるのかと覚悟した。「古き良きものを失いつつある現代人の心の病を描いた問題作」といった安っぽい小説を読まされるのかと覚悟したのだ。しかしそれがどうだ。一度は裏切られたと思ったのが、また逆に良いほうに裏切られる。物語を安っぽい問題作に堕すことなく、虚構の内にあるホンモノ、ウソのなかにある真心を描くことでホンモノのの感動作に仕立て上げた。やはり今回も浅田氏の力に完敗。まいりました。2024/09/29
yamatoshiuruhashi
59
浅田次郎は確かに稀代のストーリーテラーである。彼の作品にはいつも唸らされる。今回もそうであった。カード会社が提供する擬似「故郷」。そこに「帰っていく」人たちの心持ち、それぞれの事情。そして「故郷」への憧憬。なかなか読ませる。が、今回は不快の念を同時に持つ。所詮、この作家は江戸以来の東京者であることを前提に、他の作品で地方出身者を小馬鹿にするような、或いは東京に出てくる田舎者とは自分は違うと言う様な言葉を時折選びながらこんな作品を書いているのだとまた感じる。好きな作家だけに残念。田舎者の故郷は議事ではない。2024/08/30