内容説明
描くことは、生きること。一人の画家の“生”を描き出す魂の小説集。
画家である「私」は、今日も独り、絵を描いている。
モチーフは人形、薔薇、動物の頭骨、階段……
裸婦は描くが、風景画は描かない。
物は物らしく、あるべき姿を写し取る。
ふた月に一度アトリエに訪れる画商・吉野に絵を売り、
腹が減ったら肉を焼いて食べる。
秋には山で枯れ葉を集め、色を採集する。
対象を見、手指を動かす。
自分がほんとうに描きたいものを見出すまで――。
***
「誰もがいいと思うから、絵は売れるのだ。
しかし、ほんとうは誰にもわからない。
そんな絵が、描けないものか」
――「穴の底」より
***
“究極の絵”を追い求める一人の画家の“生”を、
一つひとつ選び抜いた言葉で彫琢した、魂の小説集です。
孤高の中年画家が抱える苦悶と愉悦が行間から匂い立つ、
濃密な十八篇がここに。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しんごろ
161
究極の絵を追い求める主人公の画家の私。その主人公の日常を絵と向かい合う姿をさりげなく書かれてる。さりげなさがある中で、そこは北方謙三。ハードボイルド感も漂わせている。主人公の画家の私を、小説家に書き換えたら、北方謙三本人でないかと思ってしまった。主人公の作るカレーが美味しそうで食べてみたい。簡単に作っているように思えるけど、けっこう手間と時間がかかってる。今すぐにでもカレーを食べたくなった。何事も続けること、自分の求めるものを追求する姿は美しくかっこいい。北方謙三の描く男は、やはり惹かれるものがある。2024/11/16
starbro
161
北方 謙三は、永年に渡って新作をコンスタントに読んでいる作家です。老境に入った著者のような画家の連作短編集、ハードボイルドな渋い小品でした。 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/97841639185492024/06/16
あすなろ
106
大好きだったブラディドール・秋霜を思い起こさせて頂いた北方先生の久しぶりの現代モノ。ここでハードボイルドと記した方が良いのであろうが、もうここまで昇華されてくると北方文学という一つの分類であり、先生の元々のルーツである純文学的要素すら浮かんで来る。もう、兎に角只管に格好が良いのてある。18歳頃から只管に追いかけて来た僕にとっては、やはり感激の連作短集だったのである。先日のTVを拝見させて頂き、新しい生涯最後のシリーズ執筆との事でしたが、また現代モノも描いてくださいませ。酔わせて頂きました。2025/02/24
KAZOO
99
北方さんの作品は若いころにハードボイルド的な作品を数多く読んだものでした。最近はまとめられたエッセイ集などを出版されていますが、それと同じような系列の作品であると感じました。独り身の画家とその画商や周りの人物たちとの何気ない日常生活が描かれています。18の短編連作ということですが、作者と同じ年代のわたしにとっては楽しめました。とくにカレーのレシピは私も作ろうという気にさせてくれました。2025/02/10
R
42
短編連作。ある画家の日々を描いた物語で、ビジネスパートナーがいて、女がいて、酒を飲み絵を描く、そういう日々の少しずつのずれや積み重ねたものが、ある時、強烈な衝動となって絵に落とし込まれる、そんな瞬間や、そうなり損ねた時間を描いていて、何か事件が起こるわけでもないのに創作しているという体験をトレースしてるような感覚になる物語だった。冷徹に金勘定ができることと、創作への熱というものは同居するし、それぞれはわずかに干渉することもあるといった感じで、小説書きもまたこうなのだろうかと思った。2024/10/07