内容説明
平均余命15カ月。手術や抗がん剤、放射線では治せない悪性脳腫瘍「膠芽腫」に3つの最新治療法が挑む。原子炉・加速器を使うBNCT。楽天の三木谷浩史が旗を振る光免疫療法。そして「世界最高のがん治療」と礼賛されるウイルス療法。産学官を横断して取材を重ね、「がんvs.人間」の最前線をまるごと描き出すノンフィクション。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
83
がん征服というタイトルとは異なる結末。新規薬剤の承認にはどれほどの紆余曲折があるだろう。本書で扱うがんは、悪性脳腫瘍である膠芽腫。5年生存率10%という悪性度の高さ。新規の治療とはBNCT、光免疫療法、ウイルス療法。新たな治療を開発した研究者、スポンサー、治験を行う資金集め、治療剤の承認プロセス。そこには政治も絡み複雑で不透明な過程も経ているのが東大藤堂具紀の開発したデリタクト。シングルアームでわずか19例の治験で条件及び期限付き承認を厚生労働省が行っているのは世界標準では認められない。後味の悪い読後感。2024/09/19
まるよし
5
学者は研究で名を残さないといけない。製薬会社は利潤を出して生き残らなければならない。利害の一致する部分、またさまざまな研究者のポリシーがぶつかり合って新薬承認の難しさがありありと伝わった。結果が良くない場合どうしたら良く見えるか、賢い学者は操作できるということ。抜け穴を作ってまでして承認させねばならない気持ちは分かる。膠芽腫という最難関の病気に対して人類が光明を見出せる日が来るのか。お金にならないと研究できない現代の闇が垣間見える。人はいつかは死ぬ。ピュアなサイエンスと経済は分けて欲しいと思う。2024/09/05
読人
4
前半は医療従事者と膠芽腫の戦いの過程を丁寧に描く、ムカジーの「がんー4000年の歴史」を思わせる作風。途中から薬機制度の歪みに付け入る医師の告発が中心になっていく。相手側の主張が取材拒否のために記載がなく、実際のところは判断できないが、列挙されている事実からは(悪意があるかどうかはわからないが)制度を悪用しているような印象を受けてしまう。せめて東大だけでなく複数の機関での臨床をするまで正式承認は保留にした方が良いのではないか。やはり制度設計は性善説ではなく性悪説の前提が必要なのかな。2024/10/05
doublebeko
4
悪性度が高い脳腫瘍「膠芽腫」の治療法を開発していく医療者らの苦闘を描くノンフィクションではない。帯タイトルは参考にならない。筆者が書きたかったのは、有効性の「推定」で患者に使用できる道筋を作った薬機法に対しての批判であり、そのような別ルートで承認を得た腫瘍溶解性ウイルスG47Δへの疑念である。iPS細胞で盛り上がった日本の医薬品開発の期待だったが、国内だけ有効性を「推定」しても、その後多くの患者で試され、最終的に確たる有効性が証明されないと世界的な医薬品にはならない。製薬業界は浮上しにくいと思った。2024/06/20
白いカラス
3
膠芽腫に挑む医師たち。リングエンハンスを画像で確認したときから死と生との戦いが始まる。医療が進歩しているのは確かですが、癌との戦いは終わらないのですね。とても参考になりました。2024/07/27