内容説明
親子ほど年の離れた男との熱愛のさなか、脳裏をよぎる若い頃の記憶と死の想念を冷徹に描く「若い男」。自らの誕生につながった姉の死の秘密を緊密な文章でつづる「もうひとりの娘」。生と性と死を書き続けて半世紀となるノーベル賞作家の最新作を含む2篇所収
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
48
「若い男」はエッセイのように軽く読めるにも拘わらず、アニー・エルノーという作家のエッセンスを存分に味わうことが出来る洗練された短篇。「もうひとりの娘」は、不在という存在、あり得た未来、黙秘された秘密によって形作られた生の一部(または作家としてのキャリア)を見通す簡潔にして重層的な名作である。思わず呑まれてしまうような傑作。内省的なのに親密感を覚えてしまう恐るべき筆力だ。全く好きではない作風やテーマだと思っていたのに、この作家の作品をもっと読みたくて堪らなくなった。これから益々邦訳が進むことを期待して。2024/05/22
ぽてち
33
タイトル通りの2篇を収録した本。「若い男」は、54歳の女性作家が30歳近くも年下の男との性愛にのめり込む話。とはいえ別段エロさはなくて、いろいろと深い洞察に顔がニヤつく。『事件』とも繋がる。「もうひとりの娘」は、自分の生まれる前に亡くなった姉へ宛てた手紙の体を取っている。10歳になるまで姉がいた事実を知らず、両親は頑なに口を閉ざしたまま亡くなった。わずかな手がかりと豊かな想像力で姉の存在に思いを馳せ、父親と母親の真実を考える。2024/06/05