内容説明
おのれを「正常」だと信じ続ける強制収容所の司令官、司令官の妻と不倫する将校、死体処理班として生き延びるユダヤ人。おぞましい殺戮を前に露わになる人間の本質を、英国を代表する作家が皮肉とともに描いた傑作。2024年アカデミー賞国際長編映画賞受賞原作
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
38
並々ならぬ緊迫感を持った異色のホロコースト文学。訳文自体は読みやすいのだが、如何せん登場人物が多く、状況や関係性を把握するのが容易ではない。無理に感情を搔き立てようとはしない”のっぺり”とした語りが、現実感を持った嫌な舌触りを残すことに成功している。記憶に残る重い小説だが、作品として傑作とは言い難いように思うがどうだろうか。マーティン・エイミスは未訳で読みたい長篇が数多くあるので、これを契機に出版が進めばよいと思う。2024/05/25
MINA
12
現在、映画も話題の本作。かなりの分厚さだけれど、読み易くてイッキ読みしていた。面白いや怖い、等という安直な感想がなんだか憚られる気がしてなんともいい難いけれど…、人間の醜悪さやお得意の見て見ぬふり、想像力のなさに無関心が凝縮されたような印象がした。強制収容所の司令官、将校、ユダヤ人三者三様の立場から紡がれる息を呑む程の凄惨な物語。後半にいくに従ってより一層とてもしんどくなり、けれど目を背けてはいけないような描写の連続だった。とはいえホロコーストというものがまだ現在進行形だと思うと暗澹たる気持ちになる。2024/06/07
おだまん
11
映画を観て不穏な映像と音響が残っているうちに。映画とは主人公もストーリーも違うのですがかの地を題材にしている根底は同じ。オチがある分小説のほうが楽しめる(楽しくないけど)かも。登場人物がそれぞれの視点から語られる形式もよかったです。2024/06/01
はるな
5
翻訳なので読みにくさを心配していましたが、読みやすかったです! 映画を見てから、原作の方が情景が浮かびやすいかもしれません!この原作を、あんな風に映画にするなんてすごいの一言です!2024/05/27
はしびろちゃん
4
小説と映画で異なるアプローチと登場人物で構成されていた。どちらにしろ、読者や観客の視点で見ると、非人道的な邪悪より自分自身の日常の問題や保身を重視する様はグロテスクだけれど、では今この時代の現実においては?と問われるようだった。終戦後のことも書かれているように、今の時代はあの時から地続きのもの。2024/06/07