内容説明
幼く純粋な妹や身を犠牲にする母と姉への愛、暴力をふるう父への愛憎、読書への切なる欲求、古代ギリシャ神話・中世ヨーロッパ伝説への憧憬、海や美しい女への畏敬の念…主人公・阿字子をとりまく家父長制や結婚への圧力など不自由な世界と、葛藤する誇り高く瑞々しい少女の精神を描く野溝七生子の自伝的小説。1926年に刊行された孤高の名篇、待望の復刊。
目次
山梔/解説 野溝七生子の人と作品 矢川澄子/解説 阿字子の帰還 山尾悠子
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
104
山梔(くちなし)は綺麗な純白の花を咲かす。ただその呼び名から嫁に貰うくちなしと揶揄されることもあったらしい。主人公は軍人の父を持つ家庭に生まれた阿字子。その高慢なるも才智ある姿が見せる気高いギリギリさに思わずギュッとなり、家族への愛情と本当の自身を求める願いの狭間で増す閉塞感に読みながら悶えた。大人になることを拒む少女。それは我儘だと単純化させない現実の矛盾を強く示す。かつての愛情を全て壊すあの言葉の怖さ。それでもそれに抗う思いを本作は残した。そして調との酔い痴れる程の言葉の掛合をずっと読んでいたかった。2024/01/07
カフカ
56
大正の家父長制の中で生きる当時としては風変わりなひとりの少女、阿字子が主人公の物語。 すぐ激昂して手をあげる父、嫂からの陰湿な嫌がらせ、女は勉強させてもらえない、結婚したくなくとも結婚を強要される世の中…。繊細な阿字子はその度に壊れそうになってしまう。嫂は常に“阿字子のためを思って“という体裁で良心にみせかけて、でも実は悪意に満ち溢れた行動をとるのに、周りの人(特に父と兄)がそれを信じ込んで阿字子を悪者にしてしまうのがすごく辛かった…。→2024/03/18
藤月はな(灯れ松明の火)
51
学問への興味、自分らしく、生きる事。それが「女性である」という事から容赦なく、潰されていく。それが社会の最も小さな縮図である家庭において行われるという苛烈さは時を超えても尚、存在している。特に結婚を拒んだ事で父兄に折檻され、絶縁される場面は読者としても心が凍り付く程の衝撃的である。特に嫁、京子の讒言を信じた兄に折檻される場面は、嘗ての兄が阿仁子にとって最大の理解者であった事を思うとより一層、その断絶が悲愴である。その中で図太く、生き残るには家父長制にとって理想的な女性像である京子になる事だという事が苦い。2026/01/09
Shun
33
1926年に刊行された野溝七生子の作品を復刊。本書を書店で見かけて著者の存在を始めて知った次第ですが、著者は尾崎翠と並んで挙げられる作家とのことで不勉強でした。現在著者作は新刊書店で容易に手に入るような本ではないため本書の存在は喜ばしいことです。何よりこの物語の内容は現代で読まれるべき、また受け入れられる土台が整ってきたと思われます。その内容は家父長制が時代の象徴だった頃の日本に女として生まれ、文学そして学問を愛する少女が受けてきた理不尽な仕打ち、少女はいかに世間の風潮と闘ってきたかが描かれる自伝的小説。2024/01/17
nami
19
「学」があるが故に周囲から迫害されていく少女・阿字子の物語。少女の行く先に待ち受けるものは結婚という選択しかないような時代で、阿字子のように自分の核たる生き方を追い求め、声を大にして叫び続けることは阿字子自身だけでなく、大切な姉妹や母の心までもを追い詰めていく。けれど阿字子とは全く異なる環境で育った嫂の京子に阿字子の気持ちが理解できない事など当然で、京子に対しても同情してしまうのだ。女性が生き方を自由に選択できる今を齎しくれた、阿字子のように社会の違和を唱え続けた先人たちの苦労に感謝と畏敬の念を覚える。2024/11/10
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