内容説明
慶応元年、倒幕を志す坂本龍馬の仲介により薩摩藩と長州藩は協約を結ばんとしていたが、一件の凶事が締結を阻む。上洛していた薩摩藩士が稲荷神社の境内で長州藩士を斬りつけ、行方を晦ませたというのだ。このままでは協約の協議の決裂は必定、倒幕の志も水泡に帰す。事態を憂慮した龍馬の依頼で、若き尾張藩の公用人・鹿野師光が捜査に乗り出す。果たして下手人は、どのようにして目撃者の眼前で逃げ場のない鳥居道から姿を消したのか。後世に語り継がれる歴史の転換点の裏で起きた不可能犯罪に、名もなき藩士が挑む。破格の評価を受けた『刀と傘』の前日を描いた長編時代本格推理。/解説=縄田一男
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
鮫島英一
20
西郷吉之助の翻意により薩長協約破断寸前に陥っていた。怒りに震える桂に啖呵を切った竜馬は中岡と長州藩小此木鶴羽士を伴い京都で西郷を説き伏せた。全てはこれで終わる筈だったのだが……運命は狂い始める。数日後小此木が瀕死の重傷を負う。あろうことか薩摩藩士が長州藩士を斬り付けたのだ。絶体絶命の状況で竜馬は尾張藩士の鹿野師光に調査を依頼。尾張藩は徳川御三家筆頭だが徳川宗家と折り合いが悪く中立的立場と言える。果たして理由はそれだけなのか? 竜馬、長州、薩摩、新選組。それぞれの想いが渦巻く京都を鹿野師光は駆けまわる。2024/08/10
Nao Funasoko
19
個人的に日本史の中で最も興味惹かれる時代は幕末。 故に事件の背景や探偵役である師光の推理ロジックは概ね理解できるものだったが、推理小説としては、もう一捻り欲しかったような気がする。 読む順番が逆になってしまったかもしれないが著者のデヴュー作も手にしてみようと思う。2024/10/01
おうつき
15
『刀と傘』の前日譚にあたる長編作品。薩長同盟の締結が間近に迫る中、薩摩藩士が長州藩士を斬りつけるという両藩の関係を揺るがしかねない事件が勃発。そんな中、坂本龍馬の依頼で調査に乗り出したのは前作にも登場した鹿野師光。そんなあらすじで上がりまくった期待を裏切らない一冊になっていたと思う。事件の真相は割と予定調和に収まっていて、消失の謎も肩透かしではあっだけど、人間ドラマで魅せてくれる。歴史ものとして見たい部分にきちんとスポットを与えてくれているのも良かった。終盤はほんのりと切なさが漂っている。2024/12/11
マッちゃま
15
時代ミステリ、歴史が絡んだミステリの良さの1つに「歴史上の偉人が登場する」のがある。本書は著者のデビュー作でもありシリーズ第1弾の前日譚。時は幕末。薩長同盟成立の奔走する坂本龍馬、長州の建て直しを目指す桂小五郎、薩摩の総大将 西郷吉之助と懐刀 中村半次郎、新撰組 土方歳三など豪華ラインナップ。逃げ場のない場所からの犯人消失、なぜ彼はソコで斬られたのか?斬る事で得をするのは誰?その後の時代の流れを知る読み手と舞台となる幕末の京都。こういうのが好きな方には堪らないシュチュエーションな本格ミステリでもあります。2024/05/25
きょん
12
『刀と傘』の前日譚。薩長同盟を成し遂げんとする時期の京都で長州藩士が斬られ、その犯人として薩摩藩士が疑われる状況になってしまう。坂本龍馬から依頼され尾張藩士・鹿野師光が人脈を駆使して追うが、そこに新選組など様々な勢力が絡んでくる展開がスリリング。幕末の歴史はあまり詳しくないので、長州藩の保守と革新の対立など初めて知った。2024/10/27