内容説明
罪を償っていれば、許せるか? 受け入れられるか? それとも、許せないのか? 揺れ動く心情を丹念に描き切った社会派ミステリー。『希望が死んだ夜に』の著者が挑む新境地――。横浜に本社を置くオオクニフーズの相模原支社に勤務する藤沢彩は、子どもの頃から自分の感情や思考を言葉にするのが苦手だ。その性格もあり引っ込み思案で人との付き合いが苦手な彩だったが、仕事のことで思い悩んでいた時に声をかけてきた一年先輩の同僚社員・田中心葉に次第に惹かれていく。心葉と同期の佐藤千暁とも次第に交流ができ、三人はそれぞれ十年後も二十年後も一緒にいたいと願うようになっていた。そんなある日、心葉が会社の朝礼で、何の前置きもなく「ぼくは人を殺したことがあります」と発言したことで、絆は揺らぐ。そして千暁にも、兄が殺された被害者遺族という人に言えなかった過去があった……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
175
人が人を許すことは難しい。大切な家族を殺した相手を絶対に許せない気持ちはわかるし、少年法に守られ正当な刑罰が下されないと知れば、自分の手で同じ苦しみを与えてやると決心するなとは言えない。相手がどれだけ前非を悔いていようと、機会があれば実行まではほんの一歩だ。しかも、そんな苦しむ心に付け入って、金儲けに利用する人も出てくるのだから。悲劇の連鎖を止めるのは許す心というが、それでも許せないのはパレスチナの現実で明らかだ。最後に千暁が心葉を許せたのは、心葉を大切に思う彩の哀しみが自分と同じだとわかったからだろう。2024/05/06
いつでも母さん
155
これはもうタイトルまんまの作品。それしか言葉が出てこない。加害者と被害者家族の間には深すぎる激流の川があるのだ。そして、加害者の周囲の者が知ってしまったら・・いつも通りでいられるか?受け入れるとか、赦すとか。無責任な外野の声には惑わされないぞ!と思うものの自信はない・・(汗)被害者家族の悲しみに寄り添う体の、怪しい奴らには嫌悪感しかない。若くして罪人となった者の更生をどう捉えるか。この男・参舵亜(改名後は心葉)や彩のように上手く自分の気持ちを言葉に出来ない苦しみは理解出来つつ、複雑な読後感だった。2024/05/06
itica
98
返答に窮するタイトルだ。元殺人犯と分かって今まで通り接するなんて無理だろうと単純に思う。しかし中身は予想より複雑だった。被害者遺族、加害者、その親しい人達皆が苦しむ重い空気をまとった内容は、そもそも答えが出る類いのものじゃない。安易なまとめ方をしないところは良かったと思う。その上で、無知の罪について考えていた。少年時代の家庭環境が違っていたら、彼は罪を犯すことはなかったのだろうか、と。 2024/05/27
ma-bo
91
会社の朝礼で突然「僕は人を殺したことがあります」と告白した心葉。仕事のことで思い悩んでいた時に声をかけてきた心葉に徐々に惹かれていた彩、兄を殺された過去のある同期の千暁は心葉が加害者だと知る。タイトルそのままを考えさせられる内容。特殊な状況に置かれた人達の心理描写が丁寧に描かれていた。冒頭の告白は、千暁の母親とYouTuberが絡んで発せられたものだが、新たな殺人事件を生む展開は必要だったのか微妙。2024/11/13
ゆみねこ
86
家族を殺害された被害者側の気持ちは、犯人がたとえ罪を償い心から反省していたとしても許せないと思う。自分の感情や思考を言葉にするのが苦手な藤沢彩、1年先輩の田中心葉、心葉と同期の佐藤千暁。ずっと仲良く交流して行けると思っていたある日、会社の朝礼で心葉が突然「僕は人を殺したことがあります」と告白した。この作品のテーマはタイトルの通り、考えさせられた。しかし、千暁の母親の殺害と真犯人の動機あたりから少しゴタゴタした感が。2024/07/27