内容説明
いま韓国で「時代の記録者」といわれる屈指の作家による、代表作となる短篇集。絶望も希望も消費するいまを生きる人々の、生活の鎮魂歌。解説=西加奈子
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
こばまり
47
最初の一編でむむっと唸り、その緊張感が最後まで失われなかった。最後の「三豊百貨店」でどかんとやられた。これは日本版編者の勝利でもある。未読の作品がまだある幸せを感じたのは久しぶりのこと。チョン・イヒョン氏、遅ればせながら追い掛けます。2024/05/07
penguin-blue
33
最初、ネットなどでの見えない人達からの言葉の暴力の話なのかとも思ったが、描かれているのは恐らく今より少し前の時代。家族、友達、同僚…身近な人達の間の微妙なすれ違い、無関心、差別意識やいらいらでのちょっとした意地悪。大きな諍いや激しい言葉がある訳ではなく、淡々とした描写を重ねて登場人物たちの間に生まれるもやもややわだかまりを巧みに描き出している。不動産の仕組みなど韓国特有のものもあるが、話は普遍的で我が身に置き換えやすく、自分自身の過去の人間関係の軋轢や行き違いを「暴力」と考えることで苦い読後感が残る。2024/09/02
にゃにゃころ
23
タイトルがとてもいい。優しく傷つけ合うっていう感覚が若い頃はわからず、このことばがしっくりこるようになったのは年を取ったからかと思っていたけれど、時代背景の方が大きいのかも。韓国は日本よりも更に生き辛いような気がするけれど、日本よりも優しいとも思う。もう少し読んでみたくなるような作家さんだった。2024/05/24
Nishiumi
15
ゆっくりゆっくり痛みを味わうように読んだ。日々の生活の中では決定的な出来事の方が珍しい。短編の主人公たちも、暴かれない罪の意識をいつまでも抱えていたり、一瞬のときめきに折り合いをつけないといけなかったり、近しい関係のはずなのにお互いを傷つけずにいられなかったり、何かしらのやり切れなさを抱えている。痛みの破片は間違いなく私の中にもあって、欠けた部分の形を確かめるように少しずつページを捲った。悲しい話ではあるけど、最後の三豊百貨店も好き。完全に断ち切られてしまった過去への慈しみと、いつまでもずぅんと鈍い痛み。2024/10/02
ちぇけら
13
こんな時代だから、誰かと会うたび、ことばを交わすたび、わたしは傷跡を増やしていく。ありがとうということばにすら刃が仕込まれていたりして、お金も愛も希望も失われた人生で、拳をもたない暴力だけがわたしを抱きしめて離さなかった。わたしをぜんぶ無かったことにして、また生き直せたら、と思ってなみだがでる。わたしは便器にこびりつく滓のように誰かの思い出に残り続け、そうしてわたしと切り離された領域で、いつまでも損なわれ続けるのだ。生きているから傷つき、生きているから傷つける。そうやって、死ぬまで生きてゆくしかないのだ。2025/02/24
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